投資を身近に感じられる機会があるのは、よいことばかりではない!?


「アメリカでは誰もが投資に対して積極的なんですよね?」とよく聞かれます。

たしかに、アメリカではリスクをとって投資をするということが、日本よりも社会一般に浸透していると言えます。アメリカという国はそもそもヨーロッパ諸国の植民地として始まり、自由とチャンスを求めて植民・移民してきた人々によってできた国です。アメリカに住む人々の中には“成功を夢見て、リスクをとる”というカルチャーが根底に生きています。

学校教育でも投資運用の概念が使われることはよくあるように思います。アメリカの公立の学校教育は州ごとに法律も異なり、また運営も学校区にかなり委ねられているため、日本のような統一の学習指導要領のようなものはありません。ただ、私が経験したバージニア州とカリフォルニア州の例だと、小学校の低中学年から、算数の問題として利子の計算(たとえば、「$10を貸して利子が3%だったらいくら返ってきますか?」のような)が出たり、高学年になると『投資プロジェクト』があって株式を選んで疑似投資し、株価の推移を追ってみるというようなものもありました。

こういうわけで、アメリカで育つ子どもたちは日本の子どもたちに比べて投資を身近に感じて育つということは確かにあります。これが、学年が上がるにつれ、リスク分散や長期的なファンド投資などへの概念まで発展していけばいいのですが、残念ながらそういう例はほとんどないように思います。よって、アメリカ人は投資とリスクテイキングに対して、少しばかり偏った姿勢を持っているのではないかと感じています。日本人が、「貯金はよいこと」と考えるように、アメリカ人は「投資はよいこと」と考えるのです。そしてそれがときに行きすぎます。

住宅投資、教育ローンetc. 過剰なリスクテイクが問題に……

顕著な例は、たとえば『サブプライムローン問題』を引き起こした住宅投資です。植民による土地獲得の歴史があるからか、あるいは社会的にモービリティ(転職・引っ越しなど)が高いからか、アメリカ人は自分の住む家も「投資」と考えます。少しぐらいリスキーでも投資だからと正当化し、本来なら無理のあるローンを勧められるまま組んでしまったのがサブプライム問題です。また、『スチューデントローン』と呼ばれる教育ローンにも同じ理論が見え隠れしています。「大学教育=将来への投資」と考え、卒業後数十年しても返済しきれないようなローンを借りてしまうことになります。今や全米のスチューデントローン残高は、そもそも莫大だったクレジットカード負債を超えました。

これらは負債を負って投資する、いわゆるレバレッジをかけた投資であり、投資の中でもよりリスクの高いものです。「It’s a good investment.(それはよい投資だ)」はまさに、アメリカではお財布のひもを緩くする(お財布に現金がない場合は、借りてでも実行させる)売りの一言なのです。

こうしてアメリカで起きているさまざまな問題を見てきて感じるのは、リスクは全くとらないのも残念ですが、手に負えないリスクをとってしまうのも悲惨ということです。やはり、自分にあったリスクをきちんと判断し、着実にリスクテイキングしていくことこそが、成功する投資につながるのではないかと思わされます。また、投資はあくまでパーソナルファイナンスの中の一要素にすぎず、家計の収支管理、正しい負債の利用、保険による大型リスクのコントロールなどと合わせ、バランスよく進める必要があります。最近のアメリカでは、このあたりの知識の欠如が問題視され、高校の授業の一環としてパーソナルファイナンスを義務化しようという動きも始まりました。

アメリカで賢く資産運用しているのは“自ら学ぶ人”

もちろんアメリカには、リスクを納得したうえで賢く資産運用している人もたくさんいます。

上記のようなやみくもな投資でなく、知恵ある投資を選ぶ人はどういう人なのでしょうか。私はこのような人は、“自分から知識を得ようと求めて学ぶ人”だと思います。学校教育だけでは足りない、親から教えてもらえるという人もわずか、巷で流行っているものや積極的に売り込まれるものには決して個人投資家のためにならないものも多い……そんな中、学ぼうとすれば機会はたくさんあるのも事実です。

私は時間給のファイナンシャルプラナーとして働いていますが、アドバイスを求めて来てくださるクライアントの方は、情報を求めて私のブログページを見つけてくださる方です。連絡をくださる時点でブログ記事をかなり読んで勉強されており、私は必要な部分だけをフォローします。

資産運用というと非常に専門的な知識が必要で、始めるのも大変、始めた後も面倒なフォローを続けなくてはならないと思われがちですが、実はそんなことはありません。インデックスファンドを使った長期投資ならば、たしかにスタート時には多少の勉強が必要ではあります。最適な投資方法とそれを実現するシステムをつくるためには、自分の判断と“納得”が必要だからです。この最初の納得が大変重要で、これがないと、市場が悪くなったりすると、パニクって売ってしまい大損するどころか、せっかく建てた長期システムが台無しということにもなります。勉強は納得して始め、その後何があっても当初の運用を守り通す心の安定を持つために必要なのです。

よって、私の考える資産運用の成功者は、人生の適切な時点で思い立って勉強し、必要であれば専門家のアドバイスを受けながら資産運用システムをつくり、あとはそのまま忠実にそれを続ける人です。ちょっと逆説的ではありますが、そのような人はそもそも全く投資運用には興味がない人が多かったりします。興味があったり力が入りすぎると、投資を始めた後も刻々と変わる情報に過敏すぎて翻弄され、着実な運用を邪魔することが多いものです。流行り廃り、時事情報にはいい意味で疎く、投資も興味はないが避けては通れないから仕方がない、奮起一番がんばって自分に合ったシステムをつくり、あとは何もしないで淡々と進む……そんな人がうまくいくように思います。そして、この成功法則はアメリカに限らず、日本においても共通なのではないでしょうか。