「あなたもそろそろ潮時じゃない?」

「で、クレーマーと直接会って話したってことね」

それから1週間後。夕食の席で、こずえが政孝にそう言った。

「ああ。でも、会わないほうが良かったかもしれんよ」政孝は苦虫を嚙み潰したような顔で言った。

「どうして?」

「来年から盆踊りの音量を下げることになったからさ」

「え、そうなの?」

政孝は不満そうに肩をすくめて見せた。

「あの手この手で理屈をつけられてさ。市の担当者や警察とも相談したんだが、騒音条例の基準値を超える音量については、やめるしかないんだってさ。納得いかんが、決まったことだからどうしようもない。みんな伝統文化への尊敬の念が欠けているよ、まったく。嘆かわしい……」

政孝は怒りをにじませていたが、こずえはむしろそのくらいで済んでよかったとほっとしたのだった。

「でも、それさえ守れば、来年も盆踊りを続けられるんでしょ?」

「それは大丈夫だが……」

「なら仕方ないわよ。どんどん若い世代に代わっていくわけだし、少しくらい運営が変わるのは当然じゃないかしら」こずえは言った。

「そうかもしれない」政孝は寂しそうに言った。

「あなたもそろそろ潮時じゃない?」

「委員長のことか? まあ、そうかもしれないな。そろそろ若い人に譲るか……」

政孝は寂しそうに笑った。

 

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。