パトカーがやってきた
盆踊りの曲が「東京音頭」に切り替わった瞬間だった。
会場に1台のパトカーが乗り付けると、中から警察官があらわれた。警察官は盆踊り会場を見回し、何か納得したようにうなずいていたが、やがて実行委員会のテントを見つけ、真っ直ぐに歩み寄ってきた。
「ああ、すみません。こちら警察のものですが、実行委員長はどなたですか?」
テントの中のパイプ椅子で休憩していた政孝は、立ち上がり、手をあげた。
「はあ、私ですが」
「あのすみません。実は、騒音が迷惑だ、ちゅう通報があったもんでして……」
「はあ?」
政孝は啞然とした。
「そう言われても、私たち盆踊りやってますから……」
「まあそりゃ見れば分かりますがね、なんでも騒音が100デシベルを超えているので、条例違反だ、って言われてるみたいですわ。そこまではっきりしたことを言われると、警察としても何か対応しなきゃならんので……」
そう言って警察官は申し訳なさそうな顔になった。怒るに怒れず、政孝には疲労感ばかりがつのっていったが、対応から逃げるわけにはいかなかった。
「通報したのはどんな人ですか。30代くらいの若い男性じゃなかったですか?」
「ちょっとそれは言えませんがね」
「えっと、実は、昨日も、その人からクレームを受けたんですよ」
「ああ、なるほど。じゃあ、つまり、その人と、そちらさんの間のトラブルちゅうことですか」
「まあそんな感じですかね」政孝は苦々しい思いで言った。
「見たところ、盆踊りをやっている以外、特に異常はなさそうだし、私どもはこれで帰るので、クレームについては、いちど当事者間で話し合ってもらえますかね」
「……分かりました」
いろいろ言いたいことはあったが、警察の配慮に感謝すべきだと思い、政孝は同意したのだった。
