<前編のあらすじ>
息子・直樹の医学部進学を前に、学費の工面に頭を悩ませる雅美。私立なら合格の可能性があるものの、家計への負担は大きい。両親を追い詰めてまで進学したくないと話す直樹に、雅美は「お金のことは私たちの役目」と言い聞かせる。
亡き母の13回忌を迎え、雅美は長年疎遠だった父・道夫と再会した。亭主関白で家族を顧みなかった父を嫌っていた雅美だが、以前より痩せ、法要中もふらつく姿を見て放っておけず、実家まで付き添うことにした。
実家は猛暑にもかかわらずエアコンが使われず、冷蔵庫には満足な食料もない。道夫は金に困っていないと言い張りながら、極端に切り詰めていた。弱り切るほどの生活を続ける理由を雅美が問いただすと、道夫は重い口を開く。
●前編【「米と漬物があれば十分だ」猛暑でもエアコンを拒む激やせの老父…娘が目撃した“異様な節約生活”のワケ】
父が明かす異様な倹約の理由
「私たちに遺すって、どういうこと?」
雅美が聞き返すと、道夫は畳へ視線を落とした。
聞けば、退職金も長年の貯蓄も、毎月入る年金も、できる限り手をつけずにいたらしい。この家も、いずれは雅美に相続させるつもりだという。
「母さんが死んで、1人になってから分かった。俺は家族に何もしてこなかった」
「今さら?」
「そうだ。今さらだ」
道夫は、家事や育児をはじめ、家の中のことは、すべて母1人に任せていた。給料を家に入れているというだけで、夫や父親の役目を果たしているつもりでいたらしい。
雅美の脳裏に、熱を出した母が父に言われて台所へ立とうとした日のことが浮かんだ。見かねた雅美が母に代わって夕食を作ると、道夫は礼も言わず、味が薄い、手際が悪いと文句をつけた。
「お父さんは私が進路の相談をしたときも、まともに話を聞こうとしなかった」
「ああ」
「自分の言うとおりにしろって、そればかりだった」
「ああ」
「誰のおかげで暮らせてると思ってるんだ、とも言ったわね」
道夫は苦いものをのみ込むように口を閉じた。当時は本気で、自分が正しいと思っていたという。
妻が亡くなり、1人では身の回りのことも満足にできず、ひとり娘も家に寄りつかなくなった。孤独な年月を重ねて、ようやく自分が大事なものを壊したことに気づいたらしい。
「7回忌のとき、お前は俺に見向きもしなかっただろ。用が済んだら、すぐ帰った」
「だって話すことなんてなかったもの」
「それで父親として、もう見放されているんだと思ったんだ」
その言葉に心が揺れたが、同情はできなかった。母や雅美が耐え忍んだ日々は、道夫が老いて後悔したからといって消えはしない。
「私にお金を遺したって、お母さんが苦労した時間は戻らない」
「分かってる」
「食費や電気代を削って自分が倒れることが、償いになるとでも思ったの?」
道夫は首を横に振った。
「ほかに、俺にできることが思いつかなかった」
