「ここに最高の先生がいるんだから」

「急に押しかけてごめんなさいねえ。うちの人がどうしてもパソコンを習いたいというもので……。パソコンくらい自分で勉強すればいいのに」

永山邦明の妻、永山恵子が申し訳なさそうにそう言って頭を下げる。

「しょうがないだろう。俺はもう76だぞ。さすがにパソコンとかITのことは独学じゃ無理だよ。人に教えてもらったほうがいい」

永山邦明はそう言って、下村弘和を指差した。

「ここに最高の先生がいるんだから、頼らないと損だ」

下村は苦笑して頭をかいた。

正直、パソコンの使い方なんて、下村弘和と円佳のような一流エンジニアに教わらなくとも、その辺のパソコン教室に行くほうが親切で分かりやすいのではないかと思っていた。

ただ、相手は大地主で、マンション内でも特別扱いされているVIP。仲良くなっておけば何か得になることもあるかもしれないし、逆に、無下に扱って怒らせると、マンション内での立場が悪くなる。そんな印象もあった。

30分ほどかけて、一通りの基本操作を教えたところで、その日の授業は終了ということになった。永山邦明は教えてもらうお礼と言って、ボルドーの赤ワインと、チーズの塊を持参していたので、4人でそのワインを飲み、しばらく談笑することになった。

と、永山恵子がふいに言った。

「そういえば、お子さんは?」