下村弘和は、都内に住む47歳のITエンジニア。大学を卒業後、約15年ほど外資系IT企業で働いた後、30代で独立し、今はフリーのエンジニアとして稼いでいる。

妻・円佳(37)もエンジニアで、大学卒業後ずっと同じ日系IT企業に勤務している。平均より所得が高く共稼ぎといういわゆるパワーカップルだった。

下村夫妻はずっと川崎市のマンションに住んでいたが、一人娘の友梨(8)が生まれたため手狭に感じるようになった。そんな時、不動産会社に勤める知人に、江東区にできたタワマンの購入を勧められた。

「どうせ抽選で落ちるだろう」と思い、深く考えず申し込んだが、当たってしまった。それまでタワマンに住むことは考えていなかったが、あらためて考えると、間取りにも余裕があるし、妻・円佳の勤務先にも近く便利に感じたので、思いきって購入を決意したのだった。

初めてのタワマン暮らしは思っていたよりも快適だった。マンション内の人間関係がドライなところは、エンジニア夫婦にとって楽だった。

それにセキュリティがしっかりしているので、子どもを持つ親としては安心感もあった。

ただ、そんなある日、下村家に、とあるお客さんがやってくることになった……。

上層階に住むタワマンVIP住人

「どうも、お邪魔します」

その日、下村弘和のマンションにやってきたのは、同じタワマンの36階に住む永山邦明(75)と、妻・恵子(67)夫妻だった。

もともとこのあたりの大地主の家柄で、このタワマンが建っている土地も、もとは永山邦明が売却した土地だという。

ただ、土地持ちにも悩みがあるもの。建物の維持管理のほか、固定資産税の支払いも負担が大きいため、永山邦明は土地を売却し、タワマンに入居させてもらうことを選んだのだった。

そんな縁があるため、37階建てタワマンの36階という、極めて条件のいい上層階に入居し、その他の面でも特別扱いを受けるという、さながらVIP待遇の住民だった。

そんな永山とタワマン内のジムで隣あったことがきっかけで、急に下村家を訪問することになったのだった。