長生き時代に揺らぐ退職金神話 

昭和の時代は、会社に定年まで勤め上げれば老後は何とかなる――そんな時代だったのかもしれない。公的年金のほかに、多くの企業が退職金制度を用意していたからだ。

しかし令和の今、その「退職金神話」は揺らいでいる。

理由の一つが長寿化だ。昭和の終わりである1989年の平均寿命は男性75.91歳、女性81.77歳だった。一方、2024年には男性81.09歳、女性87.13歳となり、平均寿命はおよそ5年延びている。長生きは喜ばしいことだが、その一方で老後資金が尽きてしまう「長生きリスク」も無視できなくなった。

さらに追い打ちをかけているのが物価上昇だ。

「老後2000万円問題」が話題になった2019年当時、消費者物価の上昇率は前年同月比0.3~0.9%程度だった。しかし2022年ごろから状況は一変し、2%を超える物価上昇が続くようになった。物価が上がればお金の価値は目減りする。例えば2%の物価上昇が10年間続けば、現在の2000万円の実質的な価値は約1640万円相当まで低下する。預金残高は変わらなくても、買えるものは減ってしまうのだ。

こうした環境変化のなかで、退職後の資産形成のあり方も変わりつつある。

退職金制度の中でも急速に普及しているのが企業型確定拠出年金(DC)だ。企業が掛金を拠出し、従業員自身が運用商品を選び、資産を育てていくこの退職金制度は、運用の結果が自分自身に返ってくるという特徴がある。

もちろん掛金を全額、預金商品で積み立てるだけでも一定の資産形成は期待できる。しかし物価上昇が続く時代では、「運用しないリスク」も見過ごせない。一方で金融知識や投資経験には個人差があり、制度を十分に活用できていない人もいるだろう。実際、企業型DCでは預金などの元本確保型商品に預けたままというケースも一定数ある。

かつては会社が老後を支える時代だった。しかし着実に、自分自身で老後を設計していく時代へと進んでいる。それは決して後ろ向きなことではない。自分の人生に主体的に向き合い、選択肢を広げていくことでもあるからだ。まずは企業型DCの運用状況を確認するなど、できることから始めてみてはいかがだろうか。

調査概要 調査名:令和7年賃金事情等総合調査 調査主体:厚生労働省中央労働委員会 調査実施期間:2025年8月4日~9月12日 調査対象企業:380 社(資本金5億円以上かつ労働者1000人以上)、うち回答企業数 207 社(回収率54.5%)
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