インフレ下の購買力と資産形成の必要性
近年、長らく続いたデフレ基調からの転換が進み、物価が持続的に上昇するインフレの傾向が強まっている。
インフレ下において、資産が預貯金のみだった場合、資産の実質的価値はどの程度減少するだろうか。仮に、インフレ率が2%、預金金利が0%だったとすると、実質的な価値は35年で半分に目減りする計算になる。預金金利が0.2%だったとしても39年で半減してしまう。
これに対し、運用益が非課税になるNISA制度などを活用して年率2%の資産運用ができたと仮定すれば、インフレ率と相殺されることで少なくともインフレによる資産の目減りは回避できる。同様に6%※2で運用できたならば、35年後には名目的な価値は7.7倍に、実質的な価値は3.8倍に増加する。
※2.GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は2つの中庸な経済シナリオにおいて、国内株式の期待収益率を4.8%と7.0%、外国株式のそれを5.4%と7.6%と推計している
インフレ下であっても、賃金がそれ以上に増加、つまり実質賃金がプラスであれば、そこまで資産運用に拘泥しなくても良いかもしれない。しかし、厚生労働省が発表している毎月勤労統計によれば、残念ながら2022年以降、実質賃金は前年同月比マイナスの月が大半である。労働による定期的な収入がインフレで目減りし購買力が低下している以上、インフレに対抗して資産形成するには、運用(投資)を活用せざるを得ない。
もちろん、多くの人は「インフレによって、現在持っている購買力が将来は目減りする」ということを知識としては身に付けているかもしれない。しかし、デフレが定着していった1990年代後半以降に社会に出て働き始めた人(概ね50歳以下の人)は、最近を除けばインフレの実体験が少ないため、将来インフレで購買力が目減りするということを実感としては持ちづらい、あるいは持っていないのではないか。インフレへの対抗策である投資をしていない人が75.9%もいるという状況は、こうした点が影響している可能性があろう。
つまり、何らかの理由で投資をしていない人にとっては、インフレによる購買力低下の実感が、何らかの理由を排して投資に踏み切らせるほどには強くないということだろう。だからと言って、これを放置しておくことは将来発生し得る資産格差の観点から望ましくないと考えられる。投資をしていない人が投資を始めやすくなるような普及・推進策を、これまで以上に講じるべきだろう。
ただし、有効な策を講じるためには、投資をしていない人に投資を躊躇させる理由を、例えば元本割れリスクといった表面的なものだけでなく、多面的・複合的に把握しておく必要があろう。
