「出金不可」の電子マネーで返金

当然ながら、その夜泊まった旅館の仲居さんへの心づけも私が若葉の分を立て替えました。夕食の後、若葉から「PayPayのアカウントあるよね?」と尋ねられ、「あまり使わないけど、持ってる」と言ったら、若葉は私が立て替えた分をすぐに送り返してきました。「ありがとう」の言葉はなく、あっけらかんと「これで全部だよね?」と言うのには呆れました。

しかし、それは、若葉にとって私が“現金立て替えマシン”と化した瞬間でもあったのです。

翌日は内宮(ないくう)にお参りに行きましたが、昼食に入った料理店や、おかげ横丁で買い物をした屋台もたまたまキャッシュオンリーでした。その度、若葉は「和ちゃん、お願い!」と手を合わせて私に立て替えを頼みます。そして、すぐにPayPayで送金してくるのです。

若葉にすれば、今どきキャッシュレス決済に対応していないお店がおかしいのであって、そうした中で自分は一旦私に払わせてPayPayで返すという対策を編み出し見事に乗り切ったと思っているのかもしれません。しかし、度々お願いされる私の方はたまったものではありません。しかも、若葉が送って来るのはPayPayマネーライトですから、後で現金として引き出すことができないのです。

2日目の夕方に入ったカフェで若葉がトイレに立った時、奈々子からも「和子、なんだか若葉の執事みたいだね」と同情されました。確かにその通りだと腹立たしく思いました。

理不尽な“現金立て替えマシン”扱いのおかげで、せっかくの伊勢旅行もあまり楽しめずに終わりました。パート仲間から「お伊勢さん、どうだった?」と聞かれても、伊勢神宮のことより若葉のことが思い浮かんで「うん、まぁ良かったよ」と言葉を濁してしまいます。

旅行から帰って以降、娘には私の使い古しの財布に1000円札を5枚と、500円玉1枚、100円玉5枚を入れて渡し、いざという時のために持ち歩かせています。

「あんたが困るだけじゃなくて、他の誰かに迷惑をかけるかもしれないんだから」

それこそが、今回の伊勢旅行の最大の教訓です。

※プライバシー保護のため、事例内容に一部変更を加えています。