「ちょっと変な教師がいたからねえ」
「でも、まあ、環境についてはそんなに心配してないんだよ」
「どういうこと?」
理子が頬杖をついたまま聞いた。晃一は両手のジェスチャーを交えながら説明する。
「この辺は関西でも文教都市として知られているし、大都市のベッドタウンにあたるから大企業に勤める家庭も多くて、所得水準も低くない。治安もい。公立とはいえそんなに荒れてはいないと思う」
「そうだね」
「治安のいい日本の中学なら、どこでもある程度のクオリティは期待できるだろうし。あまりにレベルが低かったら塾に通わせてもいい」
晃一はそこまで言ってため息をついた。
「ただ、教育方針というか、教師の雰囲気には、ちょっと不安を感じちゃったよなあ……」
「やっぱり?」
理子も同じ思いだったらしい。晃一はそれを悟ると、ずっと思っていたことを口に出した。
「ちょっと変な教師がいたからねえ」
晃一はいまいましげな表情でうなずいた。
「式の前にトイレに行ったんだけどさ。俺、いつもハンカチとか持ち歩かないから、備え付けのペーパータオルを使うんだが、学校のトイレだからペーパータオルがなかったんだよ」
「だから手を洗わなかったの? 汚いわね」理子が顔をしかめる。
「それは認める。ただ、問題はその後なんだ。俺が手を洗わずトイレを出ようとすると、教師と鉢合わせになったんだよ。その教師が俺に言ったわけ。『最近の親はこれだから困る。最低限のマナーすらなってない』って」
「まあ手を洗わないのは私も汚いと思うけど、見知らぬ人にそんな風に言われたら嫌だね」理子が言った。
「それだけじゃないんだよ。『親が汚いなら、子供もさぞ汚いだろうな』って」
「その言い方はひどいね」理子が同情した。
「さすがに失礼だろ? こんな教師がいるとはね。晃太郎が偏った教育を受けるんじゃないかってちょっと心配になったよ」
晃一はうなずくと、2個めのシュークリームにかぶりついた。イライラすると甘いものが欲しくなるのはいつものことだった。
「ほんとだね。晃太郎がその先生にあたったら困るね」理子は心配そうに言った。
「どうだろう。教科によってはあり得るんじゃない?」
「そっか……」
「まあ、せめて担任じゃないことを祈るよ」
●教師の態度に不安を感じた晃一さんでしたが、その後トラブルに巻き込まれることに。 後編:【「君のご両親は成金だから」と子どもに言った…48歳地方在住投資家が困り果てた「モラハラ教師」の真意】にて詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
