休日の日課となった不用品探し

寝室のクローゼットを開けると、冷たい空気がふわりと流れ出る。亜矢子は腕まくりをしながら、フリマアプリで売れそうなものを物色していた。

初めて出品してからというもの、休日のたびに不用品を探すのが日課のようになっている。家の収納の肥やしにしかなっていなかったアイテムが売れ、値段というわかりやすい価値に変わる瞬間の喜びはひとしおだ。

「何かないかな」

棚の奥に押し込まれた紙袋、ほこりをかぶった収納ケース、季節外れのジャケット。引っ張り出すたびに、布が擦れる乾いた音が部屋に広がる。

「これも違う、これも売れない…」

ため息をつきながら手を伸ばしたその奥で、指先が何か柔らかいものに触れた。

「あ、これ…」

薄いビニール袋の中に入っていたのは、ネクタイ。衣替えのとき、和毅が「もう捨てる」と言っていたものだ。

デザイン自体は古い。だが、生地はしっかりしていて、裏地の縫い目もほどけていない。和毅の許可を取るかどうか迷ったが、結局、そのまま窓際へ持っていった。フリマアプリで小遣い稼ぎをしていることを彼に説明するのが億劫だったからだ。

「捨てるなら別にいいよね」

柄が分かるように広げ、タグも撮る。説明欄には「使用感あり」「目立つ傷や汚れなし」。売れなければ戻して捨てればいい、と自分に言い聞かせて出品した。すると、10分もしないうちに通知が鳴り、「購入しました」と表示された。

「へえ……これ、結構人気なんだ」

調べてみると、亜矢子が出品した金額よりも高い金額で売れている同じブランドのものもいくつかあった。亜矢子は売れたことを嬉しく思う反面、ミスったなとも感じた。

亜矢子はネクタイの発送準備を終えると、クローゼットの奥の紙袋から大量のキャラクターもののバスボールを取り出した。

せっかくならなるべく高く売りたいし、自分の自由にできるお金を増やしたい。そう思った亜矢子は自宅の不用品を売るだけでなく、量販店などで安売りされていた衣類や日用雑貨を売るようになっていた。

いわゆるせどりだ。

資金面やスペースの問題もあってあまり高価なものやかさばるものは仕入れられないし、商品1点の利益はせいぜい数百円。決して大金ではない。だからこそ「このくらいならいいだろう」と、夫に対して秘密を抱える罪悪感は薄まった。

「では、お荷物こちらでお預かりします」

バスボールなど梱包した他の商品と一緒に、ネクタイをコンビニで預けた帰り道、亜矢子はすでに次の仕入れのことを考えていた。

購入→出品→売却→評価がつく。その流れの中にいる間だけは、日常生活の閉塞感を忘れることができた。

●家計を夫に管理され、息苦しさを感じていた亜矢子は、フリマアプリで小遣い稼ぎを始めた。不用品の出品から始まり、やがて夫には内緒でせどりまで始めるように…… 後編【「転売ヤーみたい」潔癖な倹約夫に“秘密のせどり”がバレるとき…お金でひずんだ夫婦関係の結末】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。