フリマアプリで見つけた商機

朝の玄関は身震いしそうなほど寒い。

暖房の届かない廊下には、冷気が漂っている。和毅はコートの前をきっちり合わせ、わざわざ靴べらを使って革靴を履いた。亜矢子は玄関のたたきに置いたスリッパをそろえながら、出勤する夫を見送った。

「いってらっしゃい」

「うん。定時で帰れると思う」

「そっか。金曜だし、たまには飲みに行ってもいいんだよ?」

「いや、必要ない」

和毅は短くそう言って扉を開け、冷たい外気と入れ替わりに出ていった。扉が閉まると、思わずため息が漏れる。

こうしてせっかく有給を取っても、和毅の手前、あまりお金のかかることはできない。せめて彼が人並みに交際費を使ってくれればと思わずにはいられなかった。

「定時か……」

リビングに戻った亜矢子は、ソファに深く腰掛け、自分のために淹れたコーヒーを飲んだ。スマホ画面を開くと、ついついオンラインショップを徘徊してしまう。しかし、欲しいと思う商品は、どれもこれも予算オーバー。

「フリマで同じのあるかな」

以前に登録したきり放置していたアプリのアイコンをタップする。目当てのアイテムを探しているうち、亜矢子は「あっ」と声を上げた。自分の持っているブラウスと同じものが出品され、しかもすでに売れていたからだ。

「これが売れるなら、もしかして……」

亜矢子は自室に駆け込み、クローゼットを漁った。

色味がイメージと違ったスカートに、丈が微妙に合わなかったブラウス、タグを切っただけのカーディガン。並べてみると、それなりの数がそろっていた。

「写真も撮らないと」

窓際の明るいところへ持っていき、カーテンを開けて自然光が入るようにする。スマホのカメラを起動し、影が入らない角度に変えて、何度か撮り直すと、それらしく見えた。アプリのガイドに従って出品すると、数分でスマホが震え、「商品が購入されました」の通知が表示された。

「え、もう売れた?」

慌てて発送の準備をしていると、また通知。

結局、夕方までに出品したほとんどの商品が売却済みとなった。

数日後には受け取り評価がされ、代金を受け取った。手数料や送料等を差し引くと、商品1つにつき1000円ちょっと。ウィッシュリストのアイテムを買うには心もとない。しかし、誰にも気兼ねすることなく使えるお金だ。

画面の残高が増えているのを見たとき、亜矢子の胸に確かな達成感が広がった。