褒められて芽生えた高揚感
連休明けの朝。ひかりはいつもの時間に出社し、バッグを置いて、椅子に腰かけた。
韓国の空気や屋台の匂いはもう遥か遠い。依子には散々連れ回され、さまざまな美容施術を受けたが、頬の熱も赤みも、帰国するまでに落ち着いていた。変化と言えば、真面目に保湿と日焼け対策を続けていることくらいだ。
「ひかっち、おはよう」
同期の森下が、書類の束を抱えたまま顔を上げた。彼女とは入社以来の付き合いだ。ひかりは軽く振って答える。
「おはよう、あいちゃん。今日、見積の返送、急ぎだったよね」
「うん……っていうかさ」
森下が少し声を落とし、ひかりの顔をじっと見た。一瞬、服に何か付いているのかと思って目線を落としかける。
「肌、なんかキレイになってない?」
「え」
「トーンが明るくなったっていうか。疲れてない感じ」
返事のタイミングを失い、思わず視線が泳ぐ。
「……そうかな。いっぱい寝たからかも」
「いや、寝たぐらいじゃこうはならないって。なんか、つるっとしてるもん」
森下は笑って、何事もなかったかのように書類を机に置いた。ひかりは「ありがとう」と言ってから、自分の声が少し上ずっているのに気づく。
胸のあたりが落ち着かない。――嬉しい。理由が分かる嬉しさだった。
午前中はいつも通りに過ぎた。見積を作り、請求書の数字を確かめ、営業からの確認に返す。頭の片隅にさっきの言葉が残って離れない。
「そんなに違うかな」
昼休憩、ひかりは給湯室の小さな鏡を覗いた。
蛍光灯の下の自分は普段と変わらないようにも見える。だが、頬を軽く押すと、普段よりも弾力があるような気もした。
「……受けて良かったのかも」
小声で言って、ひかりは自分で少し驚いた。つい先週まで、興味がないと思っていたのに。
口に出した瞬間、体の中で何かスイッチが入った感じがした。
●友人に誘われて旅行先の韓国で美容施術を受けたひかり。帰国後、周囲から褒められたことで美容の効果を実感し、ますます美への意識が高まっていく…… 後編【「こんなに使ってた?」初めての美容施術を機に美への探求が加速…やがてたどり着いた「究極の選択肢」】にて、詳細をお伝えします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
