日銀の次回利上げ、3月は無理でも4月はあり得る?

 さて、前述したとおり、長期金利が小康を取り戻し、ドル円相場もひところの1ドル=160円に迫る円安水準から1ドル=152~153円台に落ち着いたことを受けて、日本銀行の次回利上げが、4月もしくは3月に前倒される可能性は消えたのでしょうか。

 変動金利と固定金利を交換するスワップ市場(OIS∶オーバーナイト・インデックス・スワップ)は、4月金融政策決定会合(MPM)までに利上げする確率を69%(2月16日午後)とみており、80%程度だった2月上旬からは低下したとはいえ、相変わらず高い確率で4月利上げを見込んでいます。

 市場の一部には、日米首脳会談が3月19日(日本時間20日)に予定されていることから、手土産として3月のMPM(18~19日)で利上げするのではとの観測もありますが、金融政策は東京ばな奈ではありません。国会の2026年度予算審議と重なることや、物価など新たに入手できるデータが乏しいことから、その可能性は極めて低いとみています。

 しかし、4月MPM(27~28日)に関しては、

1. 2026年春闘の第1回回答集計結果が確認できること(3月23日)。
2. 3月短観(4月1日発表)、4月支店長会議の情報が入手できること。
3. おそらく、4月中旬ごろには2026年度当初予算が成立していること。
4. 1月の「展望レポート」で、円安が基調的な物価上昇率に影響を及ぼすリスクが初めて指摘されたこと。
5. 1月MPMの「主な意見」で円安に触れた意見が多く掲載されていたこと。

などから、利上げに踏み切る可能性はゼロではないとみています。ただ、その場合、上の4、5からも分かるとおり、円安が基調的な物価上昇率を押し上げるリスクを強調するか、もしくは4月の「展望レポート」(「経済・物価情勢の展望」)で「物価安定の目標」実現のタイミングを前倒しすることになるのではないでしょうか。

 現在の日銀シナリオは、「物価安定の目標」が実現するタイミングを「見通し期間後半」としています(図表3)。見通し期間というのは「展望レポート」に掲載している経済・物価見通しの期間のことで、今は2025年度から2027年度。

 その後半というと2026年7-9月期以降になりますので、それを少し前に倒せば4月利上げは可能です。まさに、田村直樹審議委員が主張するシナリオです。

<図表3 日本銀行の物価の先行きシナリオ>

出所:日本銀行、楽天証券経済研究所作成

田村審議委員の4月利上げシナリオに乗るという選択肢

 田村審議委員が2月13日に神奈川経済同友会で行った講演の資料には、経済・物価データの現状評価、先行きの見方、中立金利の自身の見方とそれと整合的な金融政策運営の考え方などが非常に丁寧かつ分かりやすく説明され(注)、「この春」の利上げが適切であることが示唆されています。

(注) 田村委員が過去に実施した7回の「金融経済懇談会」(副総裁・審議委員が年2回行う講演会)では資料が平均19ページであるのに対し、今回の神奈川経済同友会の資料は30ページに及ぶ力の入ったものとなっています。

 まず、田村審議委員は、物価に関して、すでにわが国のインフレが「粘着的(sticky)」なホームメード・インフレになっており、「この春」にも「物価安定の目標」が実現したと判断できる可能性が高いと述べています(図表4)。

<図表4 田村委員の物価に関する発言(2月13日、神奈川経済同友会)>

出所:日本銀行、楽天証券経済研究所作成

仮に、この春に「物価安定の目標」が実現したと判断するのであれば、その時点で政策金利が中立金利(景気に引き締め的でも緩和的でもない政策金利)になっていることが望ましいわけですが、田村審議委員はその中立金利を「最低でも1%程度」と従来から主張しており(図表5)、あと1回利上げすればそのゾーンに入ってくることになります。

<図表5 田村委員の中立金利に関する発言(2月13日、神奈川経済同友会)>

出所:日本銀行、楽天証券経済研究所作成

つまり、春の段階で(すなわち4月に)「物価安定の目標」が実現したと判断し、それとともに利上げを行って政策金利を中立金利と見なす範囲内に持っていく。ただ、本当に中立金利が1%か定かではないので、経済・物価の反応を引き続き慎重に点検しながら中立金利の見極めを続ける、というのが田村審議委員の利上げシナリオです。

 こうした田村審議委員のロジックは、インフレの現状や物価安定の概念的な考え方、中立金利の理論や実態などに照らして理にかなったものであり、日銀執行部としても4月に利上げするなら、この田村審議委員のシナリオに乗るという手は十分あるとみています。ただ、それには二つの高いハードルがあります。

 一つ目は、「最低でも1%程度」という中立金利の評価です。これを政策委員会として合意できるのか、もっと上を見ている政策委員が多い可能性があります。

 二つ目は、「物価安定の目標」が実現したという判断と、2013年1月に政府と交わした共同声明との整合性です。「物価安定の目標」が実現したという日銀の判断は、デフレからの完全脱却という政府の判断と整合的でなければならないとすれば、高市政権との対話が必要ということになります。