部屋を大家に見せる決意

海斗は深く息を吐き、覚悟を決めて、スマホの通話履歴から再び大家の番号をタップした。コール音が鳴る間、手のひらがじっとりと汗ばんでいた。

「はい、橘です」

昨日と変わらぬ穏やかな声に、緊張が増す。

「あの……102号室の原田です。昨日はお電話ありがとうございました。実は、あれからいろいろ考えて……もし、可能でしたら……一度、部屋を見に来ていただけないでしょうか?」

一拍、間が空いた。

「……部屋を見に、ですか?」

「はい。もちろん、無断でやってしまったことは本当に申し訳ないと思っています。ただ、ちゃんと手をかけたつもりですし、もしかしたら、現状を見て判断いただける部分もあるかと思って……」

しばらく沈黙が続いた。スマホを握る指先に力が入る。断られるだろう、とどこかで覚悟していた。だが、電話の向こうから返ってきたのは、意外にも柔らかな声だった。

「わかりました。週末なら時間が取れますので、そのときでよければ伺いましょう」

「……本当ですか? ありがとうございます……!」

心の底から安堵が湧いた。許されたわけではないが、それでも「見てもらえる」というだけで、光が差したような気がした。

通話を終えた海斗は、すぐに部屋の掃除を始めた。

床を拭き、窓を磨き、細かなホコリまで念入りに払っていく。普段から整えているつもりだったが、今日はまるで別物の丁寧さだった。どこを見られてもいいように、棚の配置も微調整し、照明の角度まで調節した。

「ふう……完璧だ」

掃除機のスイッチを切ると、部屋に静けさが戻った。気づけば日が暮れかけ、カーテン越しに差し込む西陽が、白い壁に長い影を落としていた。