無断改装を大家へ打ち明ける
修繕費用のシミュレーションをしてみると、毎月の給料を優に超えることが判明した。DIYすることに夢中になっていたから、貯金はほとんど残っていない。
心臓の奥がじんと冷える。これまで積み上げてきたすべてが、まるで砂上の楼閣だったかのように思えてきた。
慌てて契約書を取り出し、蛍光灯の下で目を凝らす。細かな文字を追い、ようやく見つけた一文が決定打だった。
「本物件の内装・設備等に借主が変更を加える場合は、必ず事前に貸主の承諾を得るものとする」
頭の中が真っ白になった。
自分は何も知らずに、いや、知ろうともせずに、勝手にやってしまったのだ。SNSの知識や動画の情報だけで、「大丈夫」と思い込んでいた。人を招いて、得意げに語っていた自分が、急に遠い誰かのように思えた。
翌日、意を決して、契約書の端に書かれていた大家の連絡先に電話をかけた。数コールののち、落ち着いた女性の声が名乗る。
「あの……原田です。102号室に住んでる。あの……ちょっとお聞きしたいことがあって……」
たどたどしく言葉を選びながら、部屋を一部改装したことを説明する。
壁の塗装や棚の設置、床材の変更……。
なるべく柔らかく、しかし正直に。電話口の相手はしばらく黙ってから、淡々と告げた。
「原則として、そういった改装は契約上認められていません。退去時には原状回復をお願いすることになりますね」
その声は決して冷たくはなかったが、海斗には死刑宣告も同然。ルールはルールだ、と言われたような気がした。
「……はい、わかりました」
通話を終えたあと、海斗は力が抜けたようにその場に座り込んだ。
照明の明るさがやけに目に染みる。完成した部屋が、急につぎはぎだらけの出来損ないに見えた。
