友人が投げかけた疑問

週末の午後、海斗の部屋には笑い声が響いていた。

「え、ここほんとにさっき見たボロアパート? 外観とギャップありすぎ。めっちゃオシャレじゃん!」

「カフェかと思ったわ。てかこの照明、既製品? それとも作った?」

「すご、床まで変えてるし……これ全部自分で?」

大学の同期たちは、ドアを開けた瞬間から目を丸くしていた。靴を脱ぎながら天井を見上げ、荷物も置かずに部屋を一回りするその姿に、海斗は内心でガッツポーズを決めていた。

「ほぼ全部DIY。まあ半年かけたし、そんぐらいにはなるよな」

なるべく気取らずに答えるが、声がわずかに弾んでいるのは隠しきれない。

何度も失敗し、試行錯誤を繰り返した日々が、今こうして評価されている。達成感と誇らしさが胸に満ちていた。

デリバリーのピザと適当にコンビニで買ったスナックをテーブルに並べて乾杯すると、久しぶりの再会に話は弾んだ。

誰かの会社の愚痴、配属先の人間関係、取引先との失敗談。笑いながら聞き合い、互いの変化を確認し合ううちに、まるで学生時代に戻ったような気がした。

そのときふと、1人がカップを手に取りながら言った。

「……そういえばさ、ここって賃貸だよね?」

「うん、そうだけど?」

「いや、すごいんだけどさ、賃貸で勝手に改装って、大丈夫なの?」

一瞬、空気がわずかに揺れた。テーブルの上の氷が、ひとつ小さく音を立てる。海斗は意識して笑顔を作った。

「まあ、がっつり壁ぶち抜いたとかじゃないし……たぶん大丈夫じゃない?」

「そっか。まあ、退去時にもめるとかないといいけどなー」

それ以上、誰も深くは突っ込まなかった。話題はすぐに別の方へ流れ、笑い声も戻ってきた。

でも海斗の中には、ふと冷たい何かが差し込んでいた。友人の指摘が刺さったのは、内心どこかで気づいていたからだ。

気にならないふりをして、調べるのを後回しにしていた。

楽しくなるほうへ、安心できる方向へ目を向けていた。

みんなが帰ったあと、散らかったテーブルを片付けながらも、彼の一言が頭を離れなかった。

「……大丈夫、だよな……?」

自分に言い聞かせるようにつぶやいた声は、思ったより小さかった。

窓の外では、すっかり夜が降りていた。暗がりに溶ける部屋の静けさが、いつになく心細く感じられた。

●築40年のアパートに引っ越した海斗は、半年かけて部屋をおしゃれに改装した。「賃貸で勝手に改装して大丈夫なの?」と友人に指摘され、契約書を確認すると無断改装が契約違反であることが判明した…… 後編【友人の指摘で気づいた契約違反…給料を超える修繕費に絶望する男性に大家の口から出た「予想外の言葉」】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。