年金制度としての機能強化
ここまで、老後資産形成という観点からDCを考察したが、最後に年金制度の観点から見ていきたい。確定拠出年金はその名のとおり年金制度ではあるものの、老齢給付のほとんどは一時金が選択されている。つまり年金としての本来の機能を発揮していない。公的年金の所得代替率は現在60%程度であり、今後については50%程度まで低下する見込みである。そうであれば、経済的に豊かな生活を送るための収入源の一つとしてDCの老齢年金が利用されて良いはずである。一時金が選択される最大の理由は、一時金取得が年金給付に比べ税制的に優位であるケースが多いから、もしくはそう考える人が多いからである。実際、年金受給した場合の今後の税・社会保険料がどうなるのかを調べるのは労力がかかる一方、一時金は退職所得となり分離課税となることから税の計算が簡単にできる上に、退職所得控除額が大きいため非課税となるケースも多い。その他の理由としては、定年時に多額の一時金を必要とするニーズ(住宅ローンの一括返済等)や、DCの資産額が少額のケースが多いことなど考えられる。とは思うものの、そもそも年金を選択するメリットや利用方法、手続きなどが加入者・受給者に伝わっていない、もしくは魅力ある制度になっていないことも一因ではないだろうか。年金受給を使い易くメリットを感じるものとするアイディアを以下にあげる。税制の見直しも必要だが、DCが年金支払い制度としての機能を充実させることが老後資産形成機能に加えて必要である。注5
① 年金受け取り関する情報の提供・手続きの簡素化
年金給付の選択には、運用を継続しながら分割払いを受ける分割払い年金と、運用をやめ保険商品を購入する確定年金、保証期間付終身年金がある。特に分割払い年金では受給開始時期、受給年数、毎年の年金額など細かく設定する必要がある。このような多くの選択肢がある中、自ら必要なものを選択し指図するのは難易度が高いと言える。選択にあたっては、老後の収入計画を具体的に立てる必要があり、公的年金の金額や同一生計の配偶者等の収入を考慮に入れることになる。この他、退職一時金やDB、個人年金など他の収入があれば、それらも含め総合的に判断できると良い。このような老後の収入計画を立てる上で必要となる情報・解説、セミナー、個別相談機能などの提供が望まれる。簡易的な方法としては、年金取得の指図中でQ&A式のインターフェイスを導入し、回答に応じて適切な選択肢へ導くことが考えられる。いずれにせよ、DCを老後資金の補完的な役割として利用するための情報提供、手続きの簡素化が必須であろう。
② 受給中の運用に適したファンドと取り崩し方法の提案機能
分割払い年金の場合は、受給しながら運用ができる。運用成果によっては受給額の増額が期待できる一方、資産枯渇リスクもある。どのように運用するか、どのような取り崩し方法をとるかで受取額に違いがでてくるが、加入者が選択する際にその判断材料に乏しい。
運用手法としては、一般に取り崩しながらの運用時には当初大きな下落があるとその後パフォーマンスが回復しても取り戻しが難しくなる注6ことから、取り崩し当初よりリスク抑制が必要であり、これを実現するためのファンド選択が必要となる。単にリスク抑制型のバランスファンドでも良いが、取り崩し期専用コンセプトのファンドが開発されても良いのではないか。
次に、取り崩し方法としては、一般的な定額取り崩しで資金ニーズに合致していればそれで良いが、途中で資産が枯渇するリスクや、運用収益が最終支払い時にまとめて支給されるなど使い勝手が悪い面もあるだろう。毎年の残高に応じて取り崩し額が算定される仕組みの導入、例えば定口数、定率、残存年金現価に応じた額などの選択注6ができるようになれば、資産枯渇リスクを回避しながら運用成果を事前に享受できる仕組みが構築可能である。法令等の改正が必要と思われるが選択肢として加えるべきである。
ただ一番の問題は、たとえこのような運用や取り崩し方法が可能としても、自らこれらを理解の上、活用できるのはかなりの上級者であろう。必要な人に年金受給を選択してもらうには、受給ニーズを掘り起こしその必要性を納得した上で、それに適した運用方法および取り崩し方法が選択できるような説明・提案・相談機能などが必要である。
おわりに
個人単位で考えると年金は加入から支給終了まで長ければ80年以上に及ぶ金融の仕組みである。その観点ではDC25周年はまだ1サイクルも終わっていない通過点である。さらなる普及・拡大が期待される制度であり、加えてその役割・機能の拡張も必要とされる。DCが社会インフラとして機能するために普及拡大を推進するとともに、退職給付制度から老後資産形成制度、年金支払い制度への転換を進めていくべきである。
なお、本稿における意見にかかわる部分および有り得るべき誤りは、筆者個人に帰属するものであり、所属する組織のものではないことを申し添える。
注1) 確定拠出年金法25周年新時代のDCのあり方(前編)~創設から現在までを振り返る~(拙著)
https://www.tr.mufg.jp/shisan-ken/pdf/shisan_keisei_48.pdf
注2) 3章の内容については以下に詳しい
ファイナンシャル・ウェルビーイングの基本特性と退職給付制度との関係性について ~DB等とDCで違いはあるか~(拙著)
https://www.tr.mufg.jp/shisan-ken/pdf/shisan_keisei_44.pdf
注3) 企業型DCにおける商品ラインアップ見直しの論点(拙著)
https://www.tr.mufg.jp/shisan-ken/pdf/shisan_keisei_37.pdf
注4) 4章②の内容については以下に詳しい
確定拠出年金制度におけるインフレ対応に関する考察(拙著)
https://www.tr.mufg.jp/shisan-ken/pdf/shisan_keisei_24.pdf
注5) 4章の内容については以下に詳しい
確定拠出年金制度における年金受給に関する考察 ~魅力ある年金給付を考える(拙著)
https://www.tr.mufg.jp/shisan-ken/pdf/shisan_keisei_31.pdf
注6) 個人投資家のための老後出口戦略 ~取り崩しの壁を乗り越える~(拙著)
https://www.tr.mufg.jp/shisan-ken/pdf/shisan_keisei_47.pdf
(執筆:MUFG資産形成研究所 所長 日下部朋久)
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