DC活用のための課題
これまで現状の法令の中でのDCの活用について述べてきたが、DCが社会インフラとして今後より一層機能するための課題や望ましい方向性について3点指摘する。
① 指定運用方法設定におけるセーフハーバー・ルールの導入
指定運用方法とは、加入者が掛金の運用指図(運用商品の選択と割合指定)を期限までに行わなかった場合に自動的に適用される運用方法で、指定運用方法で購入された商品は、加入者が指図したものとみなされる。指定運用方法の設定は任意であり、設定がない制度で運用指図がない場合、掛金は未指図資産として管理され運用されない。指定運用方法の設定件数は増加しているものの、なお限定的である。法令は指定運用方法を「長期的な観点から、物価その他の経済事情の変動による損失に備え、収益の確保を図るためのもの」と規定しているが、元本確保型商品の採用も一定割合ある注3。普及が道半ばである一因として、セーフハーバー・ルール(適切な要件を満たすファンドから設定した場合、設定主体の責任を一定範囲で免責する枠組み)が整備されていないことがある。指定運用方法の決定にあたっては適切なプロセスを踏むことが必要であるが、事業主にとっては大きな負担であるし、さらに指定運用方法の結果が芳しくない場合は加入者が不満を持つ可能性がある。せめて指定運用に相応しいファンドについて法的なお墨付きがあれば設定のハードルは下がる。要件を満たすファンドの条件や審査方法、採用後の継続審査など整理すべき事項は多いが、資産形成の推進には必要な仕組みではないだろうか。
② 掛金「インフレヘッジ」の必要性
DCの運用においてはインフレヘッジが意識されるが、掛金についてはどうであろうか。年金資産をインフレヘッジするには、掛金についてもインフレ分増額することが重要である。掛金をインフレ分増額するには法令等の改正は基本的には必要なく、定率掛金であれば算定用給与、定額掛金であれば掛金額テーブルの水準をインフレ率にあわせて変更していけばよい。しかし、現状の掛金の設定方法にインフレを考慮する仕組みを導入している企業は少数である。また、掛金上限の規制があるため、上限一杯の者に対してはそもそも不可能である。そこで、掛金額設定方法の見直しの機運を高める方策として、また上限者への対応も含めて、DC掛金の上限額を公的年金のように物価スライドするような仕組みとしてはどうだろうか。米国のDC(401(k)プラン等)などは自動的に上限が改定される。そうすれば、DC掛金のあり方としてインフレ調整はあたりまえというコンセンサスの醸成が期待できる。DCを老後資産形成制度とするならば、掛金のインフレ調整について議論を深めるべきである。注4
③ 個別の運用相談ニーズへの対応
加入者は投資教育を受けたうえで自己責任で運用指図を行う建付けである。しかし、すべての加入者が商品特性や分散投資の効果を十分理解して指図しているとは限らない。一定割合の加入者は個別相談を必要としている。一般的な投資教育では個人属性に応じた情報提供やアンケートによる投資タイプ分類がせいぜいであり、できれば個別相談に応じられる仕組みが望ましい。その場合、3章で述べたとおり、運用に関することだけではなく幅広な内容がカバーできればなお良いだろう。さらに個別の投資商品の助言ニーズがあれば投資助言業者に委ねることも一考である。
わが国ではこういった個別相談を気軽に行うこと、利用者がそれに対価を支払うということに慣れておらず利用にあたっては抵抗感があるだろう。そこで例えば事業主が独立系のFPと包括契約をし、従業員がそこに容易にアクセスできる仕組みを提供することが考えられる。費用負担を事業主がすべて持てなければ、加入者に一定程度負担してもらう仕組みでも良いだろう。
