本音が露わになった瞬間

テーブルの皿がだいたい空になったころ、リビングの熱気は少し落ち着いてきた。子どもたちはおもちゃに移り、結衣は空のグラスを集めながら、小さく息をつく。

「ねえ、結衣さん」

佐伯さんが、空いたペットボトルをまとめて持ってきた。

「今日の食材とか飲み物、ちゃんと割り勘にしよう? こんなに用意してもらってるし」

「あ、そんな、いいのに」

反射的に否定しながらも、心のどこかでほっとする。今日いくら出したのか、数字を追い始めればきりがない。

「そうだね、出させて」

「もちろん」

別のママたちもすぐに賛成し、財布を取りに立ち上がった。

結衣はざっと合計を頭の中で並べ、「このくらいで」と1人あたりの額を口にする。そのとき、ソファにいた聖来が、紙コップをテーブルに置いて顔を上げた。

「え、今日ってお金出す感じなの? だったら、先に言っておいてくれたらよかったのに」

軽い調子の声に、結衣の手がわずかに止まる。

「普通に持ち寄りだと思ってたし。お金出すならさ、もっと料理とかリクエストすればよかった〜」

リビングの空気が、にわかに固くなるのが分かった。佐伯さんが、笑顔を崩さないまま口を開く。

「でも、結衣さん、かなり用意してくれてるよ。片付けもあるし」

「そうそう。みんな何かしら持ってきてるしね」

別のママが、ちらりと聖来の方を見て言った。

「聖来さん、今日手ぶらで来てたでしょ? 結衣さんちの負担、結構大きいと思うよ」

「え、そんな言い方しなくても……」

聖来は口を尖らせ、視線を皿の上に落とした。笑い声がいったんしぼみ、短い沈黙が落ちる。

「……わかったって」

ようやく立ち上がると、バッグの中をごそごそと探り始めた。

「じゃあ、出すよ。ほら」

お金を受け取りながら、「ありがとう」と口にする。それと同時に、自分の中で1本の線のようなものが引かれるのを感じた。

やがて解散の時間になり、玄関で1組ずつ見送る。心春は「またあそぼうね」と友達と手を振り合い、頬を赤くしている。

「ほんと、今日はありがとね。またやろうよ」

コートを着ながら聖来が言う。

「……うん。また、機会があれば」

言葉を選びながら答えると、聖来は「じゃあねー」と明るく去っていった。