<前編のあらすじ>
幼稚園のママ友グループでクリスマスパーティーの話が持ち上がる。中心人物の聖来は、新築マンションに住む結衣の自宅を会場に推薦。
心配してくれるママ友もいたが、話が盛り上がり、断り切れない性格の結衣が了承する前に計画が進んで行ってしまった。
帰宅後、夫に相談すると「手伝うよ」と快諾してくれた。心春も喜んでいる様子を見て、結衣はパーティー開催を受け入れる決心をする。
●前編【「リビング広いんでしょ?」ママ友の輪で巻き起こったクリスマス企画…会場を押し付けられた母親の本音】
準備に追われる朝
パーティー当日の朝、結衣はいつもより早く目を覚ました。
カーテンの隙間から差し込む薄い光を見上げていると、そわそわと落ち着かない。今日一日、この家に何人もの親子が出入りするのだと思うと、いつもの景色がやけにぼやけて感じられた。キッチンに立つと、昨夜のうちに冷蔵庫へ詰め込んだ食材が目に入る。チキン、野菜、ジュースのペットボトルに紙皿の袋。ざっと見ただけで、レシートの数字が頭の中に並んだ。
「これで、だいたい……」
自分で計算を止め、結衣は息を吐いた。いまさら細かいことを数え始めたらきりがない。
心春が寝癖のままリビングに駆け込んでくる。
「ママ、きょうパーティーの日?」
「そう。だから、手伝ってくれる人は大歓迎です」
言いながら、テーブルの上に紙コップとナプキンを並べる。夫は約束どおり早めに起きてきて、ゴミ出しとテーブルの移動を引き受けてくれた。
「飲み物はここにまとめようか」
「うん。こぼれたら困るから、カーペットの外に置きたいな」
簡単なやりとりを重ねながら、リビングの景色がいつもの日曜日と少しずつ変わっていく。棚の上には小さなツリーとガーランド。子どもたちがみんなで座れるよう、ローテーブルを2つ繋げて並べた。キッチンでは、チキンをオーブンに入れ、サンドイッチ用のパンに具材を挟んでいく。市販のものと手作りのものを混ぜた背伸びしすぎないメニュー。それでも皿が増えるたび、流し台の中の作業の山も増えていく。
「ママ、かざり、どこ?」
心春がサンタ帽を頭に押しつけながら聞いてくる。
「箱の中。割れ物もあるから、パパと一緒に出してね」
そう言いながらも、結衣は何度か後ろを振り返ってしまう。ツリーのオーナメントが床に落ちていないか、ガーランドに足を引っかけないか。
時計を見ると、約束の時間まで1時間を切っていた。キッチンタイマーの音と、リビングで心春が歌う歌が重なって耳に入る。
「俺、このあと出るけど、挨拶くらいはするよ」
夫が腕時計を見ながら言う。
「うん。助かる」
心からそう思う。来客が玄関をくぐる瞬間だけでも、並んで迎えられるのは心強い。
最後のサンドイッチを皿に並べ終えたころ、リビングはそれなりに「パーティーらしい」形になっていた。
いつもより片付いたカラフルな部屋。ここまでやったのだから、あとは祈るばかりだ。「無事に終わりますように」と。
そのとき、インターホンが鳴った。短く震える電子音が、結衣の緊張に区切りをつけるように、部屋の空気を揺らした。
