続々と集まるママたち

「はーい」

結衣がドアを開けると、紙袋を両手に下げた佐伯さんが、少し照れたように笑った。

「呼んでくれてありがとう。これ、クッキー持ってきた。あとジュースも」

「そんな、気を遣わせてしまって」

結衣が受け取り、その横で夫も軽く会釈をする。

「ありがとうございます」

言いながら、心のどこかで肩の力が抜ける。テーブルの一角に佐伯さんの皿が加わるだけで、場の責任が少し分散した気がした。続いてやってきたママたちも、それぞれ惣菜パックやお菓子の箱を抱えている。

「子どもたち、絶対足りないよねって思ってさ」

「これ、うちの子が好きなやつなんだけど、よかったら」

そのたびにテーブルは賑やかになり、心配は少しずつほどけていった。

夫は、最初の数組に挨拶を済ませると、「じゃあ、あとは任せたね」と小声で告げてコートを手に取った。玄関のドアが閉まる音がして、リビングにはママたちと子どもたちだけが残る。

「すごーい、海外のパーティーみたい」

リビングに通されたママたちは、飾りつけを見て口々に言った。

「結衣さん、センスいいね」

「全然だよ。ネットで見て真似しただけ」

そう返しながらも、褒められたこと自体は素直に嬉しい。

最後にチャイムが鳴ったときには、子どもたちはほとんど揃い、リビングの真ん中で輪になってはしゃいでいた。

「はーい」

ドアを開けると、聖来親子が立っていた。コートの前を片手でつまみ、もう片方の手には小さなショルダーバッグだけ。紙袋も見当たらない。

「あ、結衣さん。お邪魔しまーす。うわ、いい匂い」

靴を脱ぎながら、聖来は遠慮なく奥を覗き込む。

「ホテルのビュッフェみたいじゃない? すごーい」

テーブルに近づきながら感嘆の声を上げるが、自分が何も持ってきていないことには触れない。ほどなく携帯に着信があったらしく、その場で電話に出る聖来。

「もしもーし。あー、はいはい了解…じゃあねー」

誰かが「旦那さんから?」と尋ねると、聖来はこともなげに軽く答える。

「そうそう、上の子塾に送らせたから」

その言葉に、会場を決める際に聞いた「うちは上の子もいるから」という発言の持つ意味が変わった気がした。

パーティーが始まると、子どもたちはいっせいにテーブルへ押し寄せた。案の定、ジュースがこぼれ、ポテトが床に落ちる。その様子を見た佐伯さんや他のママたちがさっと台ふきんを手に取り、手慣れた様子で動く。

「これ、こっちに寄せちゃおうか」

「紙ナプキン、もう少し出そうか」

聖来は子どもたちが水たまりを踏まないよう誘導しながら、どこか楽し気に笑っている。

「カーペットじゃなくて良かったねえ」

軽い調子でそう言われて、結衣は「そうだね」とぎこちなく笑い返した。

自分は望んで自宅を提供したわけではない。ただ、断れなかっただけだ。

賑やかな声がリビングに満ちる。心春の笑い声も、その中に混ざっている。それは確かに嬉しい音なのに、結衣の耳には、ときどき少し遠く響く瞬間があった。