<前編のあらすじ>

専業主婦の里佳子は、子ども2人を育てながら、夫・悟から渡される必要最低限の生活費でやりくりをしていた。

里佳子が生活費の増額を頼んでも「十分な額を渡している」「贅沢しているのでは」と突き放され、夫婦の溝は深まるばかり。一方、悟はゴルフにのめり込み、ゴルフ関連の出費は増え続け、家庭への関心も薄れていった。

疑念を抱いた里佳子が共通名義の通帳を開くと、想像をはるかに下回る残高と、月に数度、数万円単位で定期的に出金されている記録があった。

●前編【「何にそんなに使ってるの?」生活費を渋る夫が高級ゴルフ用品を次々購入…倹約を強いられる妻が感じた"決定的な違和感"

消えた貯金の使い道を追及

夜、子どもたちを寝かせたあと、里佳子はリビングで悟の帰りを待っていた。

「ねえ、話があるの」

帰宅してスーツを脱ぎかけた悟が、面倒くさそうに眉をひそめる。

「通帳、見たよ」

「……は?」

「何に使ったの? 毎月何万円も引き出してるあれ、普通の出費じゃないよね?」

悟は一瞬だけ無言になったが、すぐに口を開いた。

「だから何? 俺が管理してる金だろ。それに、必要があって使ってるんだよ」

「必要って?」

「仕事の付き合い。いろいろあるんだよ、こっちにも」

ごまかすような口調に、里佳子の声が低くなる。

「具体的に、何に使ったの?」

悟は舌打ちをひとつして、ソファにドサッと腰を下ろした。

「……上司に貸してる。ちょっと事情があってさ。借金があるらしくて、困ってたんだよ。ギャンブルらしいけど……まあ、返すって言ってたし」

「上司に? 家のお金を? 相談もなしに?」

「別にいいだろ。社会人にはそういう付き合いもある。見返りがあるかもしれないんだろ。俺あの人に目をかけられてるし、出世のこと考えたら悪くない判断だ」

「だから許せって?それが“家族のため”の行動ってこと?」

悟は答えない。代わりに、リモコンを手に取ってテレビのスイッチを入れた。

対話すら拒絶するその様子に、里佳子の心がすっと冷えた。信頼なんて、こんなにも簡単に、音もなく崩れるものなのかと思った。隣にいるはずの人が、もうこちらを見ていない。それどころか、最初から同じ方向など向いていなかったのだと、ようやく気づかされた。