「失われた30年」と言われるように長らく経済の停滞が続いた日本。

現在は、9月8日に日経平均株価の最高値が更新されるなど経済の好調も報じられる一方で、物価高など生活の苦しさも社会問題となっています。

日本が真の意味で成長を果たすために必要なものは何でしょうか?

超人気エコノミストの河野龍太郎氏が日本経済の“死角”を論じます。(全3回の3回)

※本稿は、河野龍太郎著『日本経済の死角——収奪的システムを解き明かす』(ちくま新書)の一部を抜粋・再編集したものです。

米国の実質賃金は25%上昇

それでは、他国(の生産性と実質賃金)はどうなっているのでしょうか。まず、米国を見ると、1998年末以降、2023年までに時間当たり労働生産性は50%程度上昇しました(図1-2)。時間当たり実質賃金は、一時、30%程度上がっていましたが、コロナ禍初期に一時目減りし、その後は徐々に取り戻して、1998年からの上昇は累計で25%程度に上ります。実質賃金は、生産性ほどには改善していませんが、日本に比べると大きく増えているということです。

米国の生産性と実質賃金(暦年、1998年=100、時間当たり)
 

ただし、このデータの裏側には、第7章でお話しするように、スキルの高い人々の実質賃金が大きく増え、一方で、スキルの乏しい人々の実質賃金は低迷を続け、所得格差が広がっているという事実が隠されていることを、認識しておく必要があります。米国では、イノベーションで生産性が上がっても、一部の人々に恩恵が集中するという、いわば収奪的な動きが政治の不安定性につながっているというのは、改めて論じたいと思います。