まとめ
本稿では、我が国が本格的なインフレ経済に突入する中、内閣府が中長期試算を改定したタイミングに合わせて、日経平均株価の長期推計を実施した。本稿の議論を要約すれば以下のとおりである。
① 割引キャッシュフローモデルを仮定すると、過去20年間の日経平均株価は、名目GDPと長期金利の年度データで92%程度説明できる。
② 中長期試算の現状維持ケースでは、TFP上昇率が直近の景気循環平均の0%台半ばで推移し、労働参加率が女性と高齢者を中心に一定程度上昇することで、名目成長率は+0%台後半、長期金利は1%台半ばで推移する。このケースを前提とすれば、日経平均株価は2030年度に6万円台、2034年度に8万円台に到達すると試算される。
③ 同様に成長移行ケースでは、TFP上昇率が過去40年の平均1%強に到達し、労働参加率が女性と高齢者を中心に過去投影ケースよりも上昇することで、名目成長率は+2%台後半、長期金利は3%台前半まで上昇する。このケースを前提とすれば、日経平均株価は2030年度に9万円台、2034年度に19万円台に到達すると試算される。
④ 同様に高成長実現ケースでは、TFP上昇率がデフレに入る前の期間平均の1%台半ばに到達し、労働参加率が成長以降ケースと同様になることで、名目成長率は+3%台前半、長期金利は3%台中盤まで上昇する。このケースを前提とすれば、日経平均株価は2030年度に10万円台、2034年度に21万円台に到達すると試算される。
ただ、本稿における推計に関しては、モデルの構造や代入される変数に関する仮定など多くの不確実性を有しているため、推計された数値そのものについては相当程度の幅を持って見る必要がある。本稿の意義としては、推計値そのものの厳密な妥当性というよりも、株価関数の推計に関する一つの考え方や、我が国株式市場の遠い将来に向けた方向感を提示すること、起こりうるインフレ経済が今後の経済・金融市場に与える意味合いを考える一助にするところにある。
株式市場の将来予測は、多数の参加者による様々な予測が存在する中で、徐々にコンセンサスが形成されていくことで価格が決まるが、我が国株式市場の将来を向こう10年といった時間軸で予測する作業にそれほど事例があるわけでもない。こうしたことからすれば、本稿が我が国株式市場の長期的な姿をイメージするための一助になれば幸いである。