バブル崩壊後、厳しい状況のなか、新卒で就職活動をしなければならなかった「就職氷河期世代」。現在、30代後半から50代前半に当たります。

就職氷河期世代の老後が現実味を帯びるにつれ、社会保障への影響を含め、世間の関心が高まっています。第一生命経済研究所の主席エコノミスト・永濱利廣氏は、「就職氷河期世代を生み、そして一部ではあっても厳しい環境のままにしてきたことが、今日の少子化や長いデフレの一因になったことは事実」と指摘します。

本記事では、永濱氏に豊富なデータをもとに、就職氷河期世代の実態を解説してもらいます。(全4回の3回目)

●第2回:「社会に出てからも割を食う」就職氷河期世代の不遇…大企業の正社員でも給料が上がらない現実

※本稿は、永濱利廣著『就職氷河期世代の経済学』(日本能率協会マネジメントセンター)の一部を抜粋・再編集したものです。

アベノミクスがすり抜けていった世代

就職氷河期世代の不遇や不安を解消するために必要なのは、さまざまな支援であることは確かですが、やはりそれ以上に大切なのは経済が良くなることです。そもそも就職氷河期世代がなぜ生まれたのかというと、1990年代前半のバブル崩壊であり、企業がその危機を乗り越えるために新卒採用を大幅に削減したことが影響しています。

しかも、バブル崩壊後の日本政府や日銀の経済政策対応が後手に回ったことで円高デフレが放置され、不況を長引かせたことが10年以上の長きに亘る就職氷河期を生み出しています。歴史に「IF(イフ)」はありませんが、この時期にリーマン・ショック後にアメリカが実施したような大規模な金融緩和や財政政策が行なわれていれば、日本は長いデフレに突入することはなく、結果として雇用環境も改善し、「就職氷河期世代」も生まれなかったのではと考えると残念でなりません。

こうした長いデフレから脱するために打ち出されたのが、2012年に発足した安倍晋三内閣(当時)の下での経済政策「アベノミクス」です。

アベノミクスは、「①大胆な金融緩和」「②機動的な財政政策」「③民間投資を促す成長戦略」という三本の矢で構成され、先進国の中でも異常な状態にあった日本経済を正常化すべく、景気回復と雇用の創出を目的としていました。

日本の長期デフレは、バブル崩壊後の需要の大きな落ち込みによって生じた需給ギャップに起因しています。需給ギャップというのは、企業の生産設備や労働力、技術力をフル稼働した際に生み出される経済の供給能力と、実際の需要との乖離のことです。

つまり、働く意欲があるにもかかわらず、失業してしまって働くことができないとか、仕事量が少なくて企業の生産設備が遊んでいるといった本来使えるはずの能力がフルに使えていないことを需給ギャップが生じているといいます。