正社員の数は増加、賃金は上昇
また、雇用の増加にも大きな効果が出ています。極端な円高・株安の是正で内外の需要が増えれば、人手不足になりますから、主にそれまで減っていた製造業や建設業では雇用が増加しました。「正社員の推移」(図表32)のとおり、アベノミクス以降、雇用の増加は顕著となり、正社員の数も増加していますし、賃金も上昇しています。

アベノミクスについて批判的な見方をする人の中には、「雇用が増えたといっても非正規ばかりが増えて、全然恩恵などなかった」と言う人がいますが、そういう人はデータを見ないで批判をしています。実際には正社員の推移を見ると、最初は女性の正社員が増えて、次に男性も増え始めています。
賃金に関しても、アメリカなどで使われる時間当たりの賃金で見ると、アベノミクス後に上がっていることが分かります[名目賃金の推移(図表33)]。

このようなデータを見ると、アベノミクスによって正社員も増加し、求人倍率なども上り、賃金も上昇したわけですが、就職氷河期世代の誰もが恩恵を受けたのかというと、そうではないでしょう。氷河期世代の一部は恩恵を受けたと思いますが、十分に恩恵を受けることができなかった人もいるというのが本当のところでしょう。
理由としては、新しく正社員になるのは若い人(新卒・第二新卒)が多いと想定され、就職氷河期世代の非正規で働いていた人たちは、そもそも賃金が低いため、たとえ賃金が上がったとしても、その金額は決して十分ではなかった人もいるでしょう。また、アベノミクスによって求人倍率自体は全都道府県で1.0を超えたものの、地方にいる就職氷河期世代にとっては都会に暮らす人ほどの波及効果はなかったかもしれません。
そう考えると、アベノミクスは就職氷河期世代にとってある程度の恩恵はあったものの、十分な恩恵を受けられなかった人もいた可能性があり、将来の不安を解決するためにもさらなる経済の活性化と、これまで紹介したような支援策の充実が必要になってくるのではないでしょうか。
●第4回は【就職氷河期世代の年金はいくら? 厚労省が非正規の厚生年金拡大を迫られる“衝撃の数字”】です。(3月6日に配信予定)
就職氷河期世代の経済学
著者名 永濱利廣
発行元 日本能率協会マネジメントセンター
価格 1,870円(税込)