唐鎌 実質賃金低迷の背景に、企業部門の業績低迷があれば致し方なしとなりますが、現実は上場企業の好決算が継続的に報じられてきたと思います。ラフに言えば「稼ぎがないので賃上げできない」という言説は当てはまらないと、多くの日本人はなんとなく感じているのではないかと思います。

とすると、企業がいかに効率的に稼ぐかという「生産性」の議論よりも、儲かったお金を企業と労働者の間でいかに分け合うのかという「分配」の議論のほうが重要に思えます。

先ほどのお話のように、ドイツやフランスに生産性の上昇率で勝っても、実質賃金が上がらなかったわけですから、生産性向上の議論には自ずと限界があるように思います。真の問題は「分配」の在り方にある、ということでしょうか。

河野 はい。結局のところ、問題は「所得分配」にあるということですね。実は、私はこの10年あまり、日本の実質賃金が上がらないのは、生産性の問題ではなく、所得分配の問題だと主張してきました。

足元でインフレが続く中、国全体としては実質賃金は下がっていますが、それ以前は、長く横ばいが続いていました。そんな中で、長年同じ大企業で働いている人からは「賃金が増えない」とか「減った」という話はあまり聞かれませんでした。

ただ、念のために言っておくと、ここ2、3年に限って言えば、毎年の定期昇給を上回るインフレが続いたので、大企業に勤める人でも、最近は物価高で実質賃金が目減りしたと感じていたと思われます。

世界経済の死角

 

著者名 河野龍太郎/唐鎌大輔
発行元 幻冬舎新書
価格 1320円(税込)