唐鎌 実質賃金低迷の背景に、企業部門の業績低迷があれば致し方なしとなりますが、現実は上場企業の好決算が継続的に報じられてきたと思います。ラフに言えば「稼ぎがないので賃上げできない」という言説は当てはまらないと、多くの日本人はなんとなく感じているのではないかと思います。
とすると、企業がいかに効率的に稼ぐかという「生産性」の議論よりも、儲かったお金を企業と労働者の間でいかに分け合うのかという「分配」の議論のほうが重要に思えます。
先ほどのお話のように、ドイツやフランスに生産性の上昇率で勝っても、実質賃金が上がらなかったわけですから、生産性向上の議論には自ずと限界があるように思います。真の問題は「分配」の在り方にある、ということでしょうか。
河野 はい。結局のところ、問題は「所得分配」にあるということですね。実は、私はこの10年あまり、日本の実質賃金が上がらないのは、生産性の問題ではなく、所得分配の問題だと主張してきました。
足元でインフレが続く中、国全体としては実質賃金は下がっていますが、それ以前は、長く横ばいが続いていました。そんな中で、長年同じ大企業で働いている人からは「賃金が増えない」とか「減った」という話はあまり聞かれませんでした。
ただ、念のために言っておくと、ここ2、3年に限って言えば、毎年の定期昇給を上回るインフレが続いたので、大企業に勤める人でも、最近は物価高で実質賃金が目減りしたと感じていたと思われます。
世界経済の死角
著者名 河野龍太郎/唐鎌大輔
発行元 幻冬舎新書
価格 1320円(税込)
著者情報
河野 龍太郎
こうの りゅうたろう
BNPパリバ証券経済調査本部長・チーフエコノミスト / 東京大学先端科学技術研究センター客員教授
1987年、横浜国立大学経済学部卒業。住友銀行、大和投資顧問、第一生命経済研究所を経て、2000年、BNPパリバ証券に移籍。23年より東京大学先端科学技術研究センター客員上級研究員を兼務、25年より同大客員教授。日経ヴェリタス「債券・為替アナリスト エコノミスト人気調査」で24年までに11回、首位に選出。著書に『成長の臨界』、『グローバルインフレーションの深層』(ともに慶應義塾大学出版会)、『日本経済の死角』(筑摩書房)など。
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著者情報
唐鎌 大輔
からかま だいすけ
みずほ銀行 チーフ マーケット・エコノミスト
2004年、慶応義塾大学経済学部卒業後、JETRO入構、「貿易投資白書」の執筆などを務める。06年、日本経済研究センターへ出向(日本経済の短期予測などを担当)。07年から欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、年2回公表されるEU経済見通しの作成などに携わる。08年10月より、みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。財務省「国際収支に関する懇談会」委員(24年3月~)。著書に『「強い円」はどこへ行ったのか』(22年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(21年12月)(いずれも日本経済新聞出版)など多数。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』や日経CNBC『昼エクスプレス』のコメンテーターなど。連載:ロイター、東洋経済オンライン、ダイヤモンドオンラインなど多数。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。
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