「生産性とイノベーション」を考察

唐鎌 「働き手の数を減らす」ということは「労働投入を減らす」ということかと思います。労働投入を減らすことで生産性を引き上げる発想は「プロセス・イノベーション(業務効率の改善)」という響きのよい言葉で表現することがありますが、要するにリストラですよね。

数式の上では「生産性=付加価値労働投入」ですから、労働投入を減らせば、生産性はたしかに上がります。しかし、これでは企業の取り分が増えても、働き手の取り分は減る可能性がありますよね。

河野 はい、その通りです。ただリストラといっても、雇用を減らす雇用リストラであるかどうかはわかりませんが、コストカットということですかね。

ちなみにイノベーションには、新たな財やサービスを創出する「プロダクト・イノベーション」と、生産工程を改善し、生産効率を向上させる「プロセス・イノベーション」の2つがあります。

アメリカ企業はプロダクト・イノベーションによる画期的な技術を用いて、新たな製品や新たなサービスの「支配的な技術・規格」──これを「ドミナント・デザイン」と言います──を確立するのが得意です。

雇用があまり流動的ではない日本では、新規事業と既存事業の共食いがもたらす雇用リストラを恐れるためか、「プロダクト・イノベーション」の意欲に乏しいように思われます。ただ、アメリカ企業などが、ひとたびドミナント・デザインを確立すると、日本企業は、非流動的な雇用の下で、「プロセス・イノベーション」の能力を発揮し、無駄を省くなど、効率化が得意です。

ドミナント・デザインといっても最初は粗削りなものも多く、日本企業による「プロセス・イノベーション」が加わることで、使い勝手のよい製品になるケースも少なくありません。「プロセス・イノベーション」をコストカットと捉えることもありますが、必ずしもそうとは言い切れないと思いますよ。

唐鎌 なるほど。「プロセス・イノベーション」と「プロダクト・イノベーション」が相互補完的な関係を保つこともできるわけですね。勉強になります。