金融庁の「プレグレスレポート」。個人投資家が注目するとしたら…

金融庁は6月末に、「資産運用サービスの高度化に向けたプログレスレポート2025」を発行しました。

プログレスレポートといえば、2020年から2023年にかけて、日本の資産運用業の現状と課題を大胆に切り出した「資産運用業高度化プログレスレポート」が、その発行と同時に大きな話題となりました。2024年はいったん、発行が見送られましたが、2025年になって装いも新たに復活した形です。

プログレスレポートを通じて行われてきた指摘は、これまで資産運用会社だけでなく金融業界全体に対して、強制こそはしないまでも、さまざまな影響を及ぼしてきました。ESGウォッシングや少額投信の乱立、運用会社の経営体制、コスト構造が不透明な仕組債問題など、同レポートで指摘された後、その見直しが行われた事例も少なくありません。

そして、若干の模様替えが行われた「資産運用サービスの高度化に向けたプログレスレポート2025」では、「プロダクトガバナンス(顧客の最善の利益に適った商品提供等を確保するためのガバナンス)の高度化に向けた取組」や、エンゲージメント(対話)を通じた「投資先企業の企業価値向上に向けた取組」、日本版EMPを通じた「新興運用業者の育成に向けた取組」の他、確定拠出年金サービスや確定給付年金サービスの高度化に向けた取組などに言及された内容となっています。

2025年版プログレスレポートの内容は、過去の内容に比べると、やや突っ込み具合が物足りない感はありますが、ひとつ注目したい点があります。それは、アクティブファンドの妥当なコストについて言及したことです。

これは大手運用会社と金融庁の対話を通じて確認したもので、工夫がみられる事例として、「典型的なアクティブファンドの場合、信託報酬は期待される超過収益(期待α)の半分以下を基準としている」とあります。

アクティブファンドのリターンは、市場全体のリターンである「市場β」と、期待される超過収益である「期待α」の2点からもたらされます。簡単に言えば、市場βはインデックス運用のリターンであり、期待αは、銘柄選別などの運用力によってもたらされる、まさにアクティブ運用のリターンです。

運用力が低く、期待αが全く得られていないアクティブファンドでも、マーケット全体が値上がりしていれば、基準価額は値上がりしますが、その値上がりが全て市場βからもたらされたものだとしたら、わざわざアクティブファンドを買う必要はありません。

アクティブファンドを選ぶ人は、運用力によってもたらされる期待αを付加価値として認めているから、それを選ぶのであり、だからこそアクティブファンドの運用者は、自らの運用力を駆使して生み出した付加価値である期待αの一部から、信託報酬を受け取る権利を主張できるのです。

しかし、仮にそうだとしても、前述したように信託報酬として得られる妥当値は、期待αの半分以下とされています。つまり運用者の運用力によって生み出された付加価値の半分を超えた信託報酬率は、その妥当性が疑われるということです。

現に、信託報酬の妥当性が疑わしいアクティブファンドのなかには、期待αと市場βを合わせた「期待トータルリターン」の50%以下としているものがあることを、今回のプログレスレポートでは指摘しています。

信託報酬を期待トータルリターンの50%に設定したとしましょう。決算時点で得られたリターンのうち、期待αが10円、市場βが60円だとして、その50%が信託報酬だとすると、その額は35円になりますから、市場βという、アクティブファンドの付加価値とは全く関係がないところで生じたリターンからも、信託報酬を取ることになります。こうした信託報酬の設定は望ましくないことを、今回のプログレスレポートは指摘したのです。

ところで、期待αというアクティブファンドの付加価値を定量的に測定するには、市場βの存在を明確にする必要があります。それなしに期待αを測定することはできませんし、信託報酬の妥当値も策定できなくなるからです。

ベンチマークのないアクティブファンド…!?

市場βは「ベンチマーク」といっても良いでしょう。

ただ、アクティブファンドのなかにはベンチマークを設定しないものもあります。プログレスレポートでは、「ベンチマークが定められていない商品においても、顧客目線に立った場合、基準価額の推移だけでは比較対象がないため、相対的なパフォーマンスの状況が分かりにくいと考えられる」ことから、金融庁は各運用会社に対して、顧客にパフォーマンスの状況をどのようにして伝えているのかを確認したところ、回答は二分しました。

「ベンチマークのないファンドでも基準価額の推移とともに、参考情報として市場の代表的な指数の推移を提供している」という回答がある一方、「投資対象が異なる中でパフォーマンスの評価としては誤解を与えかねない」という否定的な意見もあったわけですが、アクティブファンドを選ぶに際して、どの程度の付加価値が受益者にもたらされているのかを把握するためにも、参考指数は重要な判断材料になります。