父、動き出す
このまま時間が経てば昔の仲が良かったころに戻れると幸太郎は思ってきたが、必ずしもそうではないらしい。
だからといって、どうすればいいのかは分からなかった。幸太郎のすることなすことが気に食わない未来たちに取り付くための島はなく、関係を改善するための糸口はどこにもない。
そんな身動きのできなさに悶々としながら、幸太郎は何も行動を起こせずにいた。
しかしある日の休日、幸太郎の元にチャンスが訪れた。
家のソファに座りながらボーッとゴルフ中継を見ていると、自分たちの部屋から出てきた未来と明日香がリビングのテーブルでアイスを食べながら楽しそうに話し始めたのだ。
こんなことは滅多にない。普段なら、「邪魔」と追い払われてしまう。きっと会話に夢中になっていて幸太郎の存在に気付いてないだけだが、それでも隣で楽しそうな会話をする娘達が見られるだけでも幸太郎は幸せな気持ちになる。
自分に向けられたものでなくても、2人が笑顔でいてくれることが何よりもの喜びなのだ。
幸太郎は2人の邪魔をしないように息を殺し、ゴルフ中継の音量を絞って、2人の会話に耳をそばだてた。
「すずちゃんめっちゃ可愛い」
「このネックレス超似合ってるよね」
2人はスマホを見せあいながら話している。幸太郎はそっと立ち上がり、キッチンに飲み物を取りに行く振りをして、2人のスマホをのぞきこんだ。
「キモ。何見てんの?」
「あっち行ってよ」
しかし2人は即座にスマホを隠し、代わりに幸太郎のことを睨みつけた。
「あ、ご、ごめん……」
「次やったら一生口聞かないから」
未来はそう言うと明日香を連れてスタスタとどこかに行ってしまう。
2人には余計に嫌われてしまっただろうが、幸太郎にはあまり後悔はなかった。むしろ大収穫だ。ようやく見つけた一縷の希望に、幸太郎の心は躍っていた。
●もちろん、プレゼントを渡したぐらいで関係が修復するなら最初から仲はこじれていない。結局、娘に罵倒される日々は変わらなかった。項垂れる夫・幸太郎の哀愁漂う背中を見て妻はどう思うのか。後編:【「マジ最悪!」関係修復のため、思春期の娘2人に100万のプレゼントを渡した翌日に娘から面罵された夫の姿に妻が思うこと】にて詳細をお届けする。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。