最高益でも株価停滞の理由とは リニア建設費とROE悪化が懸念

今期(26年3月期)は減益の計画ですが、25年3月期は純利益が過去最高となりました。なぜJR東海の株価は下落しているのでしょうか。

1つはインフレです。物価は上昇傾向にあり、消費者物価指数(総合、全国)は2024年までの4年間で8.5%上昇しました。先述のとおり、鉄道運賃は値上げのハードルが高く、簡単にはコストを転嫁できません。インフレは利益圧迫との連想に結びつきやすく、株価の下落要因になっていると考えられます。事実、JR上場4社の株価パフォーマンスは日経平均株価に大きく劣後します。

【JR上場4社の株価5年騰落率(2025年6月11日終値)】

・JR東海:-16.23%
・JR東日本:+6.88%
・JR西日本:-4.52%
・JR九州:+23.47%
・(参考)日経平均株価:+70.97%

出所:Tradingview

JR東海の株価は、JR上場4社のなかでも低調です。JR東海が相対的に売られている理由として、リニア工事費の膨張が考えられます。

JR東海は東京~大阪間でリニア中央新幹線の開業を目指しています。総建設費は11年5月の計画策定時で9兆300億円と見積もられており、JR東海の自己負担を前提に建設が進められています。

しかし、リニア中央新幹線の建設費は計画を上回る見通しです。従来、5兆5200億円と見積もられていた品川~名古屋間の建設費は、21年4月に7兆400億円へ増額されました。24年3月には、当初計画した27年の開業に間に合わない見通しも明らかなります。JR東海の負担の増加が予想されることから、株価には下落要因です。

もう1つの理由として、ROE(自己資本利益率)の悪化が考えられます。JR東海は25年3月期に最高益を計上した一方で、ROEはコロナ前を下回ります。同社はリニア建設をはじめ大型の投資を要することから、稼いだ利益を内部留保として蓄積する方針です。結果として自己資本が増加し、ROEの低下を招いています。

JR東海の自己資本およびROEを表した図表(2016年3月期~2025年3月期)
 
出所:JR東海 決算短信より著者作成
 

自己資本を減少させるには、基本的に配当金や自社株買いといった株主還元が必要です。冒頭のとおり、JR東海は初の自社株買いを公表しました。決算説明会では「今後、自己株式取得も株主還元の選択肢として持っていきます」との考えも示しました。

しかし、株主還元は現金の流出を伴います。リニア建設で費用の増加が想定されるなかでは、積極的な株主還元は打ち出しづらい状況です。リニア建設費にメドがつくまでは、ROEの低下は続くと見込まれ、株価に逆風となっていると考えられます。

文/若山卓也(わかやまFPサービス)