株価上昇の「トランプラリー」、だが景気後退を懸念する声も

トランプ政権のビジネス寄りの政策で株価が上がる現象は、トランプラリーと称されています。昨年11月5日の米国大統領選挙で、トランプ大統領の当選が確定した直後に米国株価は跳ね上がりました。総じてその勢いが今も続いているのです。トランプラリーは、2016年の大統領選挙を制したトランプ第一期政権の再来の始まりと見ることもできます。トランプ第一期政権は、コロナ禍の短期間を除くと、好景気に支えられて株高が継続しました。

にもかかわらず、トランプ第二期政権の政策が実施されると、景気が悪くなって株価も下がる、というぼんやりとした不安を抱く人は多いのが現実です。この背景にはやや偏向した国際機関の見立てや主要メディアの論調にあると考えられます。

 

偏向した国際機関の見立てと主要メディアの報道

トランプ政権の政策は4つの柱からなります。(1)関税引き上げ、(2)移民送還、(3)中東と東欧での戦争、(4)減税や規制緩和など経済対策、です。

トランプ政権の政策が景気を押し下げるリスクが高いとする代表的な見方は、2024年10月にIMF(国際通貨基金)が出した世界経済見通しにあります。(1)関税引き上げ、(2)移民送還、(3)中東と東欧での戦争、また戦争激化で原油価格の上昇、が相まって経済の大きな下押し圧力になるとの見通しを出しました。さらに、株価の下落など金融市場の混乱も追加で世界経済の下押し圧力になると警告しました。権威ある国際機関がそのような見通しを出せば、各国政府の経済官庁、さらには主要なメディアが類似のトーンの見通しを出すのも無理はありません。こうして悲観的な見通しが流布して、人々のぼんやりした不安を煽ることとなりました。

 

産業界と投資家は楽観視

しかし、ほとんど日本では報道されていませんが、正反対の動きも出ています。米国の中小企業景況感指数(NFIB)はトランプ大統領当選確実の報道と同時に跳ね上がりました。この動きは2016年と全く同じでした。では、産業界は何を期待したのでしょうか。規制緩和と減税など景気刺激策です。より正確に言うと、(4)減税や規制緩和、AI政策など経済対策のプラスの効果が、(1)関税引き上げ、(2)移民送還、(3)中東と東欧での戦争、のマイナスの効果を凌駕するという見立てです

(1)の高い関税をかけるリスクは確かにあります。しかし、交渉のための過大な要求であることは、トランプ第一期政権と全く同じであり、もはや誰の目にも明白でしょう。しかも、関税はトランプ大統領の最大の弱点にもなっています。というのも、大統領就任式で関税を外国に払わせると宣言したにもかかわらず、今のスキームの関税では米国民に対する増税になるのです。(2)もメディアを賑わしています。ただこちらも、国境で送還した不法移民がバイデン政権時代より減ったことが事実として明らかになっています。(3)は正反対です。戦争の激化で原油価格が上がるのではなく、戦争終結の見通しから原油価格は下がっているのが現実です。(4)に対し産業界の期待が高いのは、トランプ第一期政権時代の実績があるからです。さらに、規制緩和はイーロン・マスク氏が陣頭指揮する政府効率化省(DOGE)が大胆に押し進めています。経済対策はまだほとんど出ていませんが、これは6月頃と想定される債務上限法案との抱き合わせになる見通しです。従って遅れてはいるものの、期待感が後退したわけではありません。むしろ逆にAI分野は中国との競争激化で期待感が高まっており、それは既にインテルへの台湾企業TSMCの支援策などに表れています。

 

近視眼的なショックにはご用心

トランプラリーが継続しているとはいえ、既に何度も市場では株価が急落するショックがありました。DeepSeek、関税、移民送還、などに起因するショックです。昨年12月には50年ぶりのNYダウ10営業日連続下落がありました。結論としてこれらショックはごく短期間で克服しました。ショックの特徴は(1)関税引き上げ、(2)移民送還、(3)中東と東欧での戦争、のマイナスの効果だけを過大視する点にあります。大事なのは全体像です。(4)減税や規制緩和やAI政策など経済対策のプラスと比較すると、どちらが凌駕するかなのです。

今後もトランプ政権が打ち出す政策で、市場にショックが走る局面はあると想定されます。大事なのは、近視眼的にならず、(1)から(4)を総合的に勘案することです。

 

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りそなアセットマネジメント マーケットレポート内「黒瀬レポート」https://www.resona-am.co.jp/market/report/#tabSwitchC03

 

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