株価上昇を生んだ、 衆議院選挙の自公過半数割れ

10月27日の衆議院選挙の結果は自公連立政権にとって大変厳しいものだった。連立与党は議席が215と過半数233を大きく割り込む大敗となった。今後の政権運営は不安定にならざるを得ないと想定される。選挙結果を受けて28日に多くの市場参加者は株価が大きく下落すると懸念したことだろう。しかし、実際には株価は大きく上昇した。

市場は変化を好む。よく言われる例えだが、農耕民族と違って狩猟民族は変化を好む。変化は獲物の存在を意味するからだ。この視点で今後の政策の先行きを見ると、意外と悪い話ばかりではない事に気付く。

 

今後の政権運営の可能性

今後の政治の枠組みについて、可能性は4つある。第一のシナリオは、野党連合で野田立憲民主党党首を首班指名で担ぐ野党連立政権だ。ただ、実際にはこの可能性はないだろう。議席数が過半数以下の参議院の運営が出来ないし、1993年に成立した理念の異なる多くの野党による連立政権が短期間で瓦解した記憶があるからだ。第二のシナリオは、維新や国民民主が自公連立政権に参加することだ。この可能性もほとんどないだろう。両党の当事者が明示的に否定している上に、政策を安易に修正した石破総理に対する国民の厳しい審判の結果を目の当たりにしたからだ。第三のシナリオは、自公と立憲民主党の大連立だ。経済政策は意外に近いので、親和性はある。だが、経済以外は基本的な政治哲学の差異が大きく、政界大再編(ガラガラポン)がなければ難しいだろう。最後に維新、国民民主に加え日本保守党などが法案ごとに是々非々で臨む部分連合だ。この方向性は野党各党もある程度の賛意を示していることから、可能性としては最も高いだろう。

 

意外と新鮮味のある野党の政策

これまで多くの市場参加者は野党の政策には強い関心は払ってこなかった。野党のため実際には実現しない可能性が高いからだ。しかし、自公連立政権の議席数が過半数を割り込んだことで良く吟味してみると、これが意外と改革志向な面がある。

維新、国民民主、日本保守党は、総じて右派政党だ。右派政党は強い国家を志向する。国民には権利と義務があるが、総じて左派政党は国民の義務より権利を重視するため国家は弱体化する要因となりやすい。これらの右派政党は、自公連立政権のこういう面への反発が強いと見られる。だからこそ逆の強い国家を志向するのだ。そして、3党が重視するのは老齢世代と現役世代の公平性だ。特に、現役世代の教育費の引き下げ、勤労世帯や子育て世帯への減税や社会保険料の軽減、などだ。これら政策の背景にある思想は強い国家志向と見て良いだろう。

これら野党の公約が減税で先行するのは選挙なので恒例行事の範囲だろう。ただその思想的背景には単なるバラマキではなく、自民党の高市議員の主張に近い積極財政政策がある。また、1980年代に米国経済再建に大きく寄与したサプライサイド改革の萌芽が少なからず見える。たとえば、維新が主張する大胆な規制緩和による経済成長、国民民主が主張する半導体、蓄電池、AIなど成長分野への投資減税、日本保守党が志向する第一次産業のサプライサイド強化策などだ。

立憲民主党は経済面の公約は、最低賃金の引上げ、リスキリング、CXやDXへの投資、など意外と自民党に近い。だが、自公の政策と同様に成長志向は限定的である。

 

成長戦略を加速させるか? 今後の政権運営

首班指名のための国会は11月11日に召集されると見られる。ここまでに政治の枠組みを巡り各党内と各党間の両方で相当な駆け引きが行われるだろう。

部分連合は、党議党則をかけて当該政党の全員が法案に賛成か反対だけでまとまる今は当たり前とされる投票行動にも一石を投じる可能性が高い。社会の多様化で夫婦別姓など政党が一枚岩になるのがもはや難しい事案が増えている。これは世界的な傾向でもある。議員個人が党議党則を超えて国益を判断の軸に投票すれば、意外と政権運営が不安定化しない可能性はあるだろう。

アベノミクスの元々の構想は、大胆な金融緩和と積極財政で景気浮揚を図り、その効果がある内に成長戦略を実現することだった。しかし、成長戦略は大いに遅れている。右派系の野党にせっつかれて与党の自公政権が成長戦略を加速させる、選挙前には全く想像だに出来なかった方向性が生まれてきたことは朗報だろう(脱稿10月28日)。

 

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