個人を最大限お金持ちにして、金融機関の経営効率をアップさせたい
――同じ金融業界といっても、取り組む業務内容は大きく変わっていったのですね。その後MILIZEを起業されたわけですが、フィンテックの業界に入ったきっかけは何でしょう。
何か良いことをして感謝されて、お金をもらえるって爽やかですよね――弱肉強食の世界で勝つことだけを追求する商売をするよりも、後半の人生は、世の中をわずかでもより善きものにできるよう身を捧げようと決めたのがこの頃です。Googleが創業時に「Don’t be evil(悪いことをしない)」を掲げていましたが、同じような気持ちです。
最初に起業した会社を大手のIT会社に売却した後、「ありがとう」とか「おいしかった」とか言ってもらえるビジネスへの憧れがあって、カレー屋を始めた時期もありました。評判も良かったのですが、深夜2時にレジを締めて、朝9時から仕込みを始めるような生活を6年くらい続けていくうちに、体力的に一生続けていくことは現実的ではないと考えて、店を畳みました。
その次に立ち上げたのがMILIZEです。この会社がやるべきことは、金融に関する情報格差の歪みを正して、人々や社会の役に立つことです。払わなくていい手数料を削減して、その分、個人がもっとお金持ちになったり、根性論の営業など非効率な仕組みが是正されて、金融機関が高い手数料を取らずにサービスが提供できたりすればベストだと考えて、この業界に入ってきました。
最初に作ったのは、個人の資産を管理する人生設計のサービスです。ただ、元々、金融工学に基づいたシステムを作っていたので、どんな人生のイベントでも細かなコストまで試算できて便利ではあるものの、すごく複雑なソフトウェアを作ってしまい、さっぱり使われませんでした。
ある時、家計簿アプリで成功している会社の社長に「今はスマホの時代で、スマートな画面設計で手軽な操作感のアプリがウケているよ」という話を聞き、「そうか、PCで見るような大画面の複雑な分析システムなんて個人は使わないんだ」と反省しました。複雑で多機能なソフトウェアのプログラムを、使われるシーンや目的ごとにスマホのアプリに分割していくうちに、だんだんと使ってもらえるようになって今に至ります。
私たちは人生設計に関するソフトウェアやアプリをたくさん出していますが、個人の人にもっとたくさん、自分の人生に関するシミュレーションをしてほしいということではありません。本当に目指しているのは、家計、預金、投資信託、生命保険、損害保険の加入状況など、預けていただいた金融情報を分析して、最良のアドバイスを提供するサービスです。
「これはあなたの人生を良くするのに必要ない提案です」「これは詐欺です」といった具合に、不要な金融商品を購入させられたり、金融犯罪の被害に巻き込まれたりしないようにアラートを出します。また、「お子さんが生まれたので、安くて必要十分な保障を考えましょう」「毎月、家計が黒字で貯蓄もできているので、一部をNISAで投資信託を積立すれば、将来もっと豊かになる可能性が増えます」など、本当に必要なアドバイスを必要なタイミングで提供します。
このサービスを無料でやろうとすると、スポンサーの意向でアドバイスがねじ曲がってしまう恐れもあるので、そこはユーザーの皆さまから月々に数百円をいただければと考えています。
でも、どんなに役に立つアドバイスでも、見ず知らずの会社からいきなりそんなことを言われても、怪しいし、気持ち悪いじゃないですか。
「このアドバイスをするのは誰?」「どうしてそんなことを知っているの?」「なぜ自分のためにやってくれるの?」と思われてしまうから、とりあえず今は挨拶状代わりに、たくさんアプリを作っています。