まさかの督促状

半年が過ぎた。拓郎は玄関に無造作に積み上げられた数通の封筒を手に眉をひそめていた。封筒はどれも見覚えのない宛名から送られてきていたが、すべて悠里宛て。裏面の差出人の名前と、封筒の一部から見える「督促状」の文字が鮮やかな赤色で印字されていた。

「悠里、これ……」

封筒を持ちながら声をかけると、リビングのソファで雑誌を読んでいた悠里が顔を上げた。

次の瞬間、悠里の顔からさっと血の気が引いた。その様子を見て、拓郎の胸にざわつくような不安が広がるのが分かった。悠里が封筒をひったくり、雑誌の下に隠した。

「大したことじゃないから、心配しないで」

「いや、心配するなって方が無理だろ。何があったんだ?」

悠里は黙ったまま俯き、言葉を探しているようだった。拓郎はその沈黙が何よりも不穏な答えであることを理解した。

「悠里、ちゃんと話してほしい。さっきの封筒、あれは何だ? 『督促状』って書いてあったぞ」

悠里は、逃げ場がないことを悟ったのか、観念したようにソファに腰を下ろした。その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

「実は……カードローン……利用したの……」

「いくら?」

悠里はしばらく答えなかったが、震える声でようやく数字を口にした。

「……300万、くらい……」

「どうしてそんなことになったんだ?」

悠里は俯きながら答えた。

「叔父さんの遺産が入ったとき、気が大きくなってたの。あれこれ買い物して……それで、友達付き合いも広がって、交際費だって必要でしょ? 気づいたら、カードの支払いが膨らんで......でも、大丈夫だと思ってたの。そのときはまだ遺産があったから」

「で、その遺産は?」

思わず詰め寄るように言うと、悠里は蚊の鳴くような声で呟いた。

「……今はもう、ほとんどない」

拓郎は頭を抱えた。

遺産は悠里が相続したものだから、彼女が自由に使っていいと考えていた。だが、それがすでに底をつき、それどころか借金まで抱えているとは思いもよらなかった。

さらに消費者金融で200万円の借金があることも判明し、拓郎は愕然として悠里を見つめたが、言葉は出なかった。

●困惑する拓郎に悠里はぽつぽつと、500万円まで借金がかさんでしまったワケを語るのだった。後編【「贅沢するつもりなんてなかったの」遺産2000万を使い切り借金を重ねた妻がこぼす「知られざる苦悩」】で詳細をお届けします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。