「グロソブ」と「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」 2大爆売れファンドが売れた背景は?
前述したように、「グローバル・ソブリン・オープン(毎月決算型)」は当時、過去最高の純資産総額を記録しました。三菱UFJアセットマネジメントの広報資料によると、運用が開始されて約128カ月後の2008年8月8日に、5兆7685億円に達したということです。
そして今回、「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」がそれを抜いたわけですが、その純資産総額が5兆7696億円に達するのに要した期間は約75カ月でした。それだけ短期間のうちに、大きな資金を集めることができた背景は、言うまでもありませんが、2024年1月に行われたNISAの制度見直しです。
制度の恒久化、非課税期間の無期限化、そして非課税限度額の引き上げという3点セットによって、多くの人にとって「NISAをやらない理由がない」とまで言わせしめるほどでしたが、そのなかで多くの資金が「eMAXIS Slim米国株式(S&P500)」や「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」に流入しました。
あくまでも私の概算ですが、「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」の資金純流入額は、新しいNISAが始まる前、2023年12月の1カ月間が約780億円だったのが、2024年1月が約2090億円、2月が約1780億円、3月が約1550億円というように、毎月1000億円超の月が続いています。
これは「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」も同じで、2023年は1カ月あたり多い月で1000億円、少ない月だと300億円台だったのが、2024年に入ってからは2000億円から3000億円の資金純流入が続いています。
このように、eMAXIS Slimの2ファンドが多額の資金を集められたのは、NISAの制度見直しが行われた2024年1月までに、「資産形成はローコストのインデックスファンドで行うのが合理的」というブランド戦略が奏功したためと考えられます。
それとともに、投資信託を購入している個人の意識にも変化が感じられます。
「グローバル・ソブリン・オープン(毎月決算型)」の人気化は、どちらかというと販売金融機関のセールス力によって作り出されたものと考えられます。当時はまだ、個人が積極的にファンドを選んで購入するよりも、販売金融機関の営業に言われるがまま、ファンドを買っていたような時代でしたし、販売金融機関のラインナップを見ると、地方の地場証券、地方銀行、信用金庫など、対面型営業の金融機関が多数を占めています。
一方、eMAXIS Slimシリーズは、インターネット金融機関で販売される商品です。インターネット金融機関は対面型の営業は行いませんから、そこを通じて買われている商品は、多少の情報誘導によって購買動向が左右される面はあると思われますが、最終的には個人顧客が自分で選んで購入しているはずです。その点からすると、eMAXIS Slimシリーズの人気化は、個人が自発的に選んだ結果よるものと言えるのではないでしょうか。
つまり、2008年8月までの「グローバル・ソブリン・オープン(毎月決算型)」の盛り上がりと、今回の「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」の人気化では、購入者の“購買意識”が異なると考えられるのです。
しかも、「グローバル・ソブリン・オープン(毎月決算型)」の購入者は、毎月受け取れる分配金を年金代わりにしたいという動機が強かったせいか、購入者は高齢者が大半でしたが、米国を中心とする世界株式に長期分散投資することを自ら選んだ結果として「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」や、「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」を購入したのだとすると、これら2ファンドの購入者は、資産活用層である高齢者よりも、資産形成層に該当する年齢の若い人が中心である可能性が高いと考えられます。
eMAXIS Slimシリーズの人気化が、若い層を中心に、長期的な資産形成を目的して積極的に投資信託を使い始めた嚆矢(こうし)だとしたら、日本の個人の資産形成の在り方も、ここから大きく変わっていくのかもしれません。