外資系コンサルブームも「新時代の赤字」に寄与

ちなみに、その他サービス収支の赤字はこうした「通信・コンピューター・情報サービス」だけに起因するものではない。そのほか「専門・経営コンサルティングサービス」の赤字も2022年は▲1兆6313億円、2023年は▲2兆1246億円と「通信・コンピューター・情報サービス」よりも大きな赤字を記録している。

「専門・経営コンサルティングサービス」は広告取引や世論調査などにかかる費用が計上されたりする項目であり、当然、インターネット広告を売買する取引などもここに含まれてくる。この意味で「専門・経営コンサルティングサービス」もデジタル赤字の色合いを含んだ項目である。

しかし、項目名が示す通り、外資系コンサルティング企業の日本における取引も多分に反映している。多くの読者が知る通り、近年の日本では大学卒業後、外資系コンサルティング企業へ新卒で就職したり、もしくは転職したりするケースが増えている。筆者の周りでも業種問わず外資系コンサルティング企業に転職したという話は非常に多く、一種のブームのような機運も感じる(もちろん、ブームだと一過性で終わってしまうため、表現としては適切ではないかもしれない)。

ここで重要なことは、それだけ外資系コンサルティング企業の事業拡大が日本で図られているという事実だ。外資系企業である以上、日本で計上した売上・利益の一部は本国へ送金される。日本人(≒日本企業)から見ればサービスの対価として外貨を支払っていることになるため、彼らの事業活動が日本で活発化するほど、それは円売り圧力に直結すると考えるのが自然だ。

こうしたコンサルティングサービスに関する取引だけを切り出すことはできないが、「専門・経営コンサルティングサービス」の赤字は「全てがデジタルではない」という知識は持っておいた方が良い。デジタル赤字というフレーズが流行する中で、さほど知見を持たない識者がこれを乱用するケースも多々見られており、ミスリーディングな議論も見受けられるため、正しい知識と共に読み解くことを推奨したい。

頭脳流出を象徴する研究開発サービスの赤字

さらに「研究開発サービス」も2022年に▲1兆7252億円、2023年は▲1兆6779億円の赤字となっており「通信・コンピューター・情報サービス」や「専門・経営コンサルティングサービス」と匹敵する赤字を記録している。なお、2022年の赤字は過去最大であった。

「研究開発サービス」は文字通り、研究開発に関するサービス取引のほか、研究開発の成果である産業財産権(特許権、実用新案権、意匠権)の売買などを計上する。日本の貿易収支黒字が減少し始めた頃、「モノを作って売るといった経済活動は海外に移るが、研究開発のような付加価値の高い経済活動は日本に残る(だから心配ない)」という論調があった。

しかし、残念ながら貿易収支は赤字が慢性化し、研究開発関連のサービスに関しても海外への支払いが膨らんでいる現実がある。こうした状況を映すデータは数多いが、例えば、日本おける民間部門の研究者数は全く伸びておらず、これが諸外国対比で見ても異様な状態であることは既に文部科学省の報告書などで指摘されている(下記、図表1-7)。

 

頭脳流出とも形容できる現状に関し、日本政府としても無策であって良いはずがなく、歯止めをかけようという動きも見られ始めてはいる。

このほか「技術・貿易関連・その他業務サービス」も2022年は▲9900億円、2023年は▲7903億円と▲1兆円の大台に迫る赤字を記録している。これは建築、工学等の技術サービス、農業、鉱業サービス、オペレーショナルリースサービス、貿易関連サービスなどを含むとされ、石油や天然ガス等の探鉱・採掘などの売買が計上されているという。具体的には資源の権益売買などが計上されるというが、分類の判然としない取引がここに集約される傾向も指摘されており、実情はよく分からないという方が正確である。

●第3回は【経産省の“慧眼” 「デジタル赤字」を石油にたとえれば、日本の新たな危機が腑に落ちる】です。(9月28日に配信予定)

弱い円の正体 仮面の黒字国・日本

 

著者名 唐鎌 大輔

発行元    日経BP 日本経済新聞出版

価格 1,100円(税込)