李菜の運動会を邪魔したくない

康子を連れてきた保育士がすぐに応急処置をしてくれた。そして、念のため病院へ行くように勧めた。

「痛みが治まるまではしばらくはこちらで休んだほうがいいです」

リレーが終わった後は、玉入れが行われる。当然、玉入れにも李菜は参加するので、早く運動場に戻りたかった。しかし、足首の痛みはまだ治まる様子はなかった。

保育士が康子に声をかける。

「今から、李菜ちゃん、連れてきますね」

しかし、康子は唇をかんで、首を横に振る。

「いえ、大丈夫です。あの子はまだ参加する競技が残ってますし」

「でも……」

「全然気にしないでください。あの子、今日の運動会を楽しみにしていたので」

康子は無理やり笑顔を作った。もちろん、正直な気持ちだ。それに、情けない自分の姿を李菜に見せたくないという気持ちもあった。

「……痛みが治まるまでは無理しない方がいいですよね?」

康子が質問すると、保育士は困ったような笑顔を見せる。

「そうですね……。今日はお一人ですか?」

「いえ、両親も一緒です」

「でしたら、ご両親に撮影をしてもらうのがいいと思いますよ。もちろん、ここからでも見えますけど、距離がありますからね」

本当はそんな指示は無視して、運動場に行きたかった。ただ、無理をすると結局保育園側に迷惑をかけることになってしまうだろう。それに、明日の仕事にも影響が出る可能性もある。

「……はい、分かりました。ご迷惑をおかけします」

康子がそう言うと、保育士は安堵した顔で救護室を出て行った。