個人投資家のマネーは「マーケットインパクト」を持つのだろうか

では、クレカ積立の買付日が集中すると言われている毎月1日営業日を投資信託の買付日にすると、本当に高値をつかまされるのでしょうか。

これは某FPさんが数年前、ネット記事でそのようなことを書いていたのが、独り歩きしたのではないかと推察します。

そこには「月末や月初といったキリのいい日よりも、あえて中途半端なキリの悪い日にしたほうが、運用成績は若干よくなるかもしれません。理由は、多くの人が『キリのいい日に買いたい』と思うと、その日は株価が上がって割高になる可能性があるからです」と書いてあったのですが、NISAを通じて買い付けられる資金に、そこまでマーケットに強いインパクトを及ぼすだけの力があるかどうかを、まず考えるべきでしょう。

金融庁が定期的に公表している「NISA口座の利用状況調査(2024年3月末時点)」によると、NISAを通じて投資信託を購入した金額は、2024年1月の月初から3月末までで3兆5048億2810万円です。

ここには成長投資枠で買い付けた分も含まれているので、定額積立購入だけでなくスポット購入もあります。したがって一概には言えないのですが、細かい数字が補足できないので、ここでは一応、投資信託の購入金額をすべて積立投資と考えます。すると、3カ月間で買い付けられた3兆5048億2810万円の1カ月平均額は、1兆1682億7603万円になります。

とはいえ、この1兆1682億7603万円の買付が、毎月第1営業日に集中するとは限りません。なかには他の買付日を指定する人もいるはずです。そこで、これは何の根拠もないのですが、このうち半分が第1営業日に買い付けると仮定すると、その日の買付額は5841億3801万円になります。

では、この5841億3801万円にどれほどのマーケットインパクトがあるのかを考えてみたいと思います。

確かにこの額が、時価総額で1000億円程度の中型株式1銘柄に集中したら、とんでもないことになります。株価は当分の間、ストップ高が続いて値が付かない状態になるでしょう。

もちろんそんなバカな運用をするはずもなく、入ってきた資金はさまざまな投資対象に分散されます。国内株式市場だけでなく、国内債券市場や海外株式市場、海外債券市場にも分散されます。

ちなみに、東証プライム、スタンダード、グロースの各市場を合計した1日平均売買代金は、2023年度が約5兆円です。また、国債店頭市場の1日平均売買代金が16兆6950億円なので、株式と国債だけで1日平均売買代金の合計額は、21兆6950億円になります。

5841億3801万円の買いがあったとしても、株式と国債の売買代金合計額に占める割合は3%にも満たないので、マーケットインパクトは軽微といってもよいでしょう。

さらに付け加えるのであれば、上記はあくまでも国内マーケットを前提にしていますが、実際にNISAで投資信託を買い付けている人のなかには、オール・カントリーやS&P500といった海外の指数に連動するタイプをメインに買っている人も少なくありません。

古い数字しか取れなくて恐縮ですが、2022年度の米国株式市場の売買高は44兆3158億9100万ドル、年度の営業日数が238日なので、1日平均の売買高は1862億122万ドルです。これを1ドル=140円で円建てにすると、26兆681億7117万円になります。

つまり、国内株式+日本国債+米国株式の1日平均売買代金は47兆7631億円ですから、そこに5841億3801万円の資金が投げ込まれたとしても、マーケットインパクトなど皆無に等しいといっても過言ではないでしょう。

積立日を選ぶより、もっと大切なことがある

積立投資で大事なのは、タイミングを計ることではありません。もっとも大事なのは、継続することです。継続すれば、基準価額が下げていく局面で、より多くの口数を買い付けられます。

その点、確かに基準価額が上がらないタイミングで買えれば、長期的に考えてパフォーマンスの改善につながると考えることもできますが、先に検証したように、恐らくNISAの口座を通じて買いつけられている金額程度では、マーケットを大きく動かすような影響力はほとんどないと思われます。

マーケットが大きく下げたとしても、そこで怖くなって投資を止めてしまうのではなく、淡々と継続させていけば、マーケットインパクトを避けてベターな積立日を選ぶことによって得られるプラスαのリターンよりも、はるかに大きなリターンが期待できるはずです。