アメリカの良きパートナーか、アメリカ戦略の歯車か?

日本半導体の復権に向けて起きている最近の慌ただしい動きを見ていると、さまざまな思いが頭をよぎります。この動きのトリガーとなったのが、心ある人々の熱意と願望の結晶なのか、神風なのか、歴史の綾なのか、米中覇権競争の中でのアメリカ(自由主義圏を含む)の安全保障戦略の波及効果なのかについては、いろいろな考えがあるでしょう。

特に最後の点に関し、アメリカはチップス法(Chips and Science Act)に代表される新たな戦略に基づいて、半導体の国内生産回帰と自由主義圏内で可能な限り完結できるサプライチェーンの確保に動いています。

例えば、アメリカ国内の新工場としては、インテルがアリゾナとオハイオにハイエンド前工程の生産工場を、ニューメキシコには後工程の生産工場を、そして海外に目を向けるとアイルランドとドイツにハイエンド前工程の生産工場を、ポーランドに後工程の生産工場を、そしてタイに先進パッケージ開発施設をつくるなどの動きがあります。

またグローバルファウンドリーズはニューヨークにミドルレンジの前工程の生産工場を、TIはテキサスに同じくミドルレンジの前工程の生産工場を、マイクロンはアイダホとニューヨーク、さらには広島にも最先端のDRAMの生産工場をつくる計画です。

またTSMCはアリゾナにハイエンド前工程の生産工場を、日本にはミドルレンジの前工程の生産工場を、ドイツにはボッシュ、インフィニオン、NXPセミコンダクタと共同でミドルレンジの前工程の生産工場を、サムスンはテキサスにハイエンド前工程の生産工場をそれぞれ計画あるいは着手しています。

アメリカ国内に建設される生産工場ついては、アメリカ企業か海外企業かの別なく(条件は異なる可能性あり)アメリカ政府の資金援助を受けられます。

このほか、TSMCやサムスンなどは国内に最先端前工程の生産工場を建設しています。フランスの市場調査会社Yoleによれば、今後5年間で100兆円を超える資金が半導体チップ製造に投資される予測もあります。

我が国の半導体産業が失われた30年の眠りから目覚め、アメリカの戦略に盲目的に組み込まれることなく、日米安全保障に基づいた「良きパートナー」として、世界に存在感を示しながら隆盛し、最終的に「半導体が人々の幸福に資する」ことを望んでやみません。

●第3回は【元NECトップ技術者がサムスン電子・TSMC・エヌビディアの強さの秘密を語る】です。(7月18日に配信予定)。

教養としての「半導体」

 

著書 菊地正典

出版社 日本実業出版社

定価 2,200円(税込)