ここ数年、投資界隈は半導体銘柄が大きな話題となっています。

2024年6月、半導体大手エヌビディアはアップル、マイクロソフトを抜いて、時価総額世界トップに躍り出ました。生成AI「チャットGPT」が公開されたのは2022年。この短期間に、AIに使われる先端半導体を開発するエヌビディアの株価は約8倍になりました。

日本の半導体関連銘柄であるレーザーテック、東京エレクトロンも日本株をけん引する存在として、話題を振りまいています。次々と国内で新たな半導体工場の建設が進むなか、日本経済の復活のカギを握るのは半導体と言っても過言ではないでしょう。

そこで、かつて世界を席巻した「日の丸半導体」を率い、また没落していく姿を最前線で見てきた元NECのトップ技術者である菊地正典氏に、技術者でなくても知っておきたい半導体を巡る最新事情を解説してもらいます。今回は、業界のリーディングカンパニーの実態をお伝えします。(全4回の3回目)

●第2回:半導体新技術「日本は先行している」は愚かな妄想。次はお家芸の装置・材料が狙われる?

※本稿は、菊地正典著『教養としての「半導体」』(日本実業出版社)の一部を抜粋・再編集したものです。

サムスン電子 ハングリー精神が支える

サムスン電子
売上高:35兆2100億円(2022年) 従業員数:11万3500人

サムスン電子(韓国)は、韓国最大の財閥サムスングループの中核会社で、世界最大の総合家電、電子部品、電子製品のメーカーです。

半導体メーカーとして、メモリ分野(DRAM、NANDフラッシュ)では世界ナンバーワンの地位にあり、近年、インテルと半導体世界シェアのトップ争いを演じています。

サムスン電子に関して強く記憶に残っていることが2点あります。一つは、リー氏(Y. W.Lee)が社長を務めていた頃、筆者は半導体関係の学会やシンポジウムで何度かリー氏にお会いする機会がありました。感心したのは、リー氏本人が講演するときはもちろん、その前後の分科会にもできるだけ出席し、他の人の発表を聞いては鋭い質問を投げかけていたことです。

もちろんリー氏は大会社の社長ですから、多忙であることは間違いありませんが、そんな中でも時間を割いては技術発表に耳を傾け、最新技術データを収集し、経営上の判断に役立てようとする姿勢がありました。まさにハングリー精神の発露という印象を強くもったものです。

一般に、大会社の社長や役員が招待講演などで話をする場合、自分の講演が終わると、「技術的な話は聞いてもよくわからないし、時間も割けない」と、すぐに退席してしまうケースがほとんどです。そんな中で、リー氏の振る舞いが新鮮かつ印象深く残ったのかもしれません。

もう一つは、サムスンのDRAM製品がぼつぼつ世に出始めた頃の話です。

その頃、筆者が勤めていた会社も御多分に漏れず、「キャン・オープナー」(*)よろしく、他社の半導体製品を解析し、その構造などを根掘り葉掘り調べることが日常的に行なわれていました。サムスン電子のDRAMに関しては、まだサムスンの知名度が低かったこともあって、筆者の周りの人はほとんど、よくも調べない段階から、「たいしたことはないよ、放っておいたら」という考えが大勢でした。

しかし筆者がサムスンの解析データ(各部の断面SEM写真など)を見たとき、そこにちょっとした工夫というか、アイデアというべきか、それらが垣間見えました。そのとき、筆者は「よく考えてつくっている、決して侮れない」という強い印象をもったものです。

その後のサムスン電子の躍進については、今さらいうに及びません。

(*)キャン・オープナー(can opener):他社の半導体製品チップを調べるため、パッケージングを剥がして、各部の平面構造や断面構造などを解析する人の意味。