在宅での緩和ケア

登司はがんを患っていた。何度も手術や放射線治療をしていたが、そのたびに転移をして、登司の体をむしばみ続けている。今回、倒れたのもがんが原因だった。

しかしそれほどまでに体が悪いのにすぐに退院できるということは、もう病院では打つ手がないということ。後は痛みなどを緩和する治療に切り替え、自宅で最期の時を待つのみとなっていた。そしてそのことを登司が1番、よく分かっていた。

退院をして、すぐに明理は登司をベッドに寝かす。麻央もそれを手伝ってくれた。

自分のベッドで横になり、一息ついた登司は2人の顔を見る。

「そんな顔をするな。私はとても幸せだったよ。お前と麻央がいてくれる。最高の人生だ」

「ちょっと、止めてよ」

「お前たちにもそれなりの資産を残せるし、思い残すことはないさ」

「気弱にならないで。まだお父さんには元気でいてもらわないと困るんだから」

登司は天井を見上げた。

「ああ。でもな、母さんに会いたくなってな」

「……今から行ったら、お母さんに怒られるわよ」

明理は涙がこぼれそうになるのをごまかすため、部屋を出た。そして大きく息を吐き出す。

しっかりしなきゃ。私がお父さんを守るんだ。

そう決意を固めて、携帯を耳に当てた。