一時金で受け取った場合に検討したいこと
このような税制の違いから、一時金受け取りは、「節税になり手取りが増えてお得!」と言われています。特に勤続年数が長い人ほど、控除の恩恵が受けやすく、もらう一時金が控除内に収まってしまえば、税金がいっさいかからずまるまる手取りになるケースも多いようです。
しかし、税金がかからないという理由だけで、一時金受け取りを選択すると、あとで困ることがおこる場合もあります。
企業年金を一括で受け取った場合、その後、そのお金はどこに行くのでしょうか?
定年後も残っている住宅ローンの返済に充てるなど、使い道が決まっている人は別として、漠然と「老後資金にしよう」などと考えている人は、一時金を受け取ったあとで、お金の置き場所を改めて考えなければならなくなります。
今年スタートした新NISAを活用し、受け取った一時金を運用して増やし、老後は運用しながら取り崩して資産寿命を延ばそうと考えている人もいるかもしれません。NISAならば運用益も非課税で、受け取り時にも税金がかかることはありません。
しかし、投資信託などのリスクのある金融商品の運用は、必ずしもうまくいくとは限りません。損失が出てしまった場合は、税金を払うより悔しい思いをするかもしれません。
運用失敗という、最悪の可能性を頭においたうえで、もう一度よく考えてみてください。
企業年金をもらったあとに、改めてリスクのある運用をスタートし、運用しながら取り崩すと考えているのであれば、むしろ、企業年金を分割で年金として受け取るほうが楽なのではないでしょうか?
年金受け取りの場合にも様々なメリットがある
企業年金を年金としてもらうと、税金で損をするようなイメージが定着していますが、必ずしも、そうとは言えません。65歳未満なら年間60万円まで、65歳以上なら年間110万円までの受け取りであれば、所得税の課税対象にはなりません。
企業年金を年金で受け取る場合、受け取る年数を長くすることで、1回の受取額を少なくしたり、公的年金の受給を繰り下げて受取期間が重ならないようにしたりなど、税負担が大きくならないよう工夫することもできます。
会社の制度が確定給付企業年金の場合は、年金で受け取ると受取期間中1~2%程度の利息がつくのもメリットです。一時金受け取りより総受取額が多くなるのが一般的で、約束された金額がもらえるため、運用でハラハラすることはありません。
一方、企業型確定拠出年金の年金受け取りには、年金資産の分割回数と支給年数を選んで自分の口座に振り込んでもらう分割取崩という方法と、年金資産で年金給付用の保険商品を購入して分割で受け取る方法があります。
前者の場合は、受取期間中に年金資産の価格が変動する場合があり、運用中の商品が値上がりすれば多くもらえますが、値下がりしてしまうと予定より早く年金給付が終了してしまう場合もあります。ただし、分割取崩の場合は、受取期間中もスイッチングが可能なため、途中で元本確保型の商品に切り替えて受給することもできます(年金商品を購入した場合はスイッチング不可)。
仮にNISAで投資信託の値下がりが始まったとしても、商品をスイッチングすることはできません。損を食い止めるためにいったん売却して現金化するか、再び値上がりするまでじっと待つしかなくなります。