かくれんぼ
そして夏子は山を登り、大声で子供たちを呼んだ。
「莉奈ちゃーん、どこー⁉」
大声を張り上げるが、返事はない。
そこから夏子は大きな声を出しながら、山を登っていった。
次第に日が落ちていく。そして山の空気は恐ろしく冷たい。しっかりと防寒をする時間がなかった。子供たちがこんなところで一夜を過ごせるわけがない。
夏子は必死で子供たちを探した。
次第に山の傾斜は厳しくなり、息が荒くなった。足腰がキツい。しかし足を止めるわけにはいかなかった。
山は深くなるほどに光が閉ざされる。まだ日没までは時間があるはずなのに、周りがとても暗い。
夏子は携帯のライトを照らしながら、捜索を続ける。バッテリー残量を気にしながら歩いていると、隣の茂みがいきなりガサガサと揺れ出した。
クマか、と思った。しかし逃げる気力がもう残っていなかった。
最悪の事態が脳裏をよぎる。
だが固まる夏子の前に現れたのは半べそをかいた莉奈と子供たちだった。
「……へ?」
思わず夏子はその場にへたり込みそうになる。
すると夏子を見た瞬間、莉奈たちが大声で泣き出した。夏子はそれを見て、必死に堪え、子供たちを抱き寄せる。
温かい、本物だ。
「良かった。皆、いるわね」
泣きながら莉奈の話を聞くと、かくれんぼをしていて、莉奈が鬼の時に子供たちが山に隠れたそうだ。莉奈は1人1人を見つけるのに苦労して、ここまで時間がかかったとのこと。
夏子は大きく息を吐き出す。これで終わりじゃないと自分に言い聞かせる。
辺りは暗くなっていて、子供たち全員を連れて下山することは大変だと分かっていた。
そのためにもう一度気を引き締める。
「あっ!」
そのとき莉奈が声を上げた。振り返ると、大きな光がこちらに近づいてくる。
「みんな、大丈夫か!?」
声を聞いただけで涙がこぼれそうになった。夫が追ってきてくれたのだ。
夫は夏子を見て、安堵を見せる。
「まったくむちゃして……」
「ご、ごめんなさい」
夏子は素直に謝罪をした。