警察に連行されたのは……

デートの前日の土曜日、3カ月ぶりにヘアサロンに行き、伸びた髪を肩まで届くミディアムボブに整え、流行りのシアーベージュにカラーリングした。帰路、ZARAの路面店のウインドーで見つけた鮮やかなオレンジのニットワンピースまで購入してしまった。

合わせて4万円の出費は今の私には痛手だが、未来を切り開くための“経費”と思えば仕方ない。

マンションに戻り、居室のカードキーを差し込もうとした時、「あら、釆澤さん」と声がかかった。振り返ると、隣室の合田さんの奥さんが立っていた。

 

嫌な人に逢ってしまった。心の中で毒づいた。

40絡みの合田さんの奥さんは、智也いわく「最もこのマンションの住民らしくない人」だ。勤務先のアラフォーの先輩方はメイクやファッションも現役感に溢れているが、この人は身なりには一切無関心。

一方でマンションの住民への関心は人一倍高いようで、常にアンテナを張り巡らせている。特にネガティブ情報が大好きな、いわゆるゴシップコレクターだ。

「聞いた? 27階のボクちゃん、今朝方警察に連れていかれたって」

「え?」思わず息を呑んだ。陽太のことではないか。

「このマンションで若い子相手にマルチ商法やってたみたいよ。あなた、ボクちゃんと仲がいいらしいじゃない。北村さんが言ってたわよ。夜中にジムでよくデートしてるって」

「誤解です。たまたまジムで何度か一緒になっただけです」

「そうお。あなた、きれいだし、不倫でもしてるのかと思った。そう言えば、最近、旦那さんの姿をお見かけしないわね。お元気?」

「ええ。自宅で仕事をする時間が増えたみたいです。元気ですよ」

「ならいいけど。それにしても、大変よね。住民から逮捕者が出たとなると、また煩方がいろいろ言ってきそう」

「そうですね……」

陽太が警察に連行された。マルチ商法? 何が何だか分からない。