バースデーパーティー

「ナチュラルウインド」のマスターだけには、智子と別れたことを伝えた。

「いやあ、大変でしたね」

「まさか、あんなに金遣いが荒い人だなんて思わなかったよ」

「でも、そんなに金遣いが荒いなんてちょっと信じられないなあ」

「どうして?」

「だって、前に店に来たとき『前の旦那から慰謝料たくさんもらってるからお金には困ってない』って言ってたんですよ」

その話は初耳だった。

トラウマ(心的外傷)をえぐるようなことはしないでおこうと、離婚についてはあまり詳しく聞かないようにしていた。

しかし、とにかく高いものを欲しがる智子の姿はとてもお金に余裕のある人間のものだとは思えなかった。

「そういえば、智子さんこんど『フェール・ア・ムーラン』で誕生日パーティーをするらしいですよ」

「え?そうなの?」

大原は耳を疑った。

「フェール・ア・ムーラン」はこの町でいちばんの高級店だった。

フランスで修行してきたというシェフの作る料理は非常に評判が高く、遠方から訪れる客もいるという。そんな店で誕生日パーティーを開くということは、やはりお金には困っていないのだろうか。

もちろん、大原が誕生日パーティーに呼ばれるはずもなく、大原はSNSを通じて智子が本当に「フェール・ア・ムーラン」で盛大なパーティーを開催したことを知った。

『私の誕生日をたくさんのお友達がお祝いしてくれました! みんな、これからもよろしくね!』

投稿に添えられた写真には、大勢の人に囲まれて幸せそうな笑顔を浮かべている智子の姿があった。

仕事をしていない智子がこんなに盛大なパーティーを開けるということは、やはりたくさくんの慰謝料をもらってお金に困っていないからだろう。

それでは、どうしてあんなにも自分に高級レストランや高いアウターをねだったのか。

いくら考えても答えは出なかった。