ほのめかされたプロポーズから一転…

さらに数カ月がたち、イアンは会社を辞め、本格的に起業の準備を進めているということだった。日本は春を迎えたが、アイルランドはまだ少し寒いらしい。

「日本に行ったら、最初にあなたに会いたい。ずっと相談に乗ってくれたことへの感謝の言葉を伝えたいし、どうしても伝えたいことがある。恥ずかしくて、これ以上は言えないよ」

「ありがとう。私にとってもイアンがすごく大きな支えだったよ。早く会いたいな。何を伝えたいのかは聞かないけど、私も気持ちを決めてるからね」

思わせぶりなイアンのDMにたいして、涼子は心を込めて返信した。「どうしても伝えたいこと」が涼子へのプロポーズなのは明らかだった。

翌日、イアンからいつものように届いたDMを開けると、彼が珍しく怒っているのが分かった。もちろん涼子に怒っているのではなく、日本でオフィスを借りるのに「外国人だから」と信用してもらえないことに怒っているのだった。オフィスを借りるにあたって敷金を日本円で180万円振り込まなければいけないのだが、イアン本人ではなく「信頼できる日本人の方」が振り込まなければいけないと言われたらしい。

「まさか、大好きな日本でこんな風に差別されるなんて思わなかった。そんな大金を代わりに振り込んでくれるようなビジネスパートナーもいないし、会社を作る計画は白紙だよ」

イアンからのDMを読んだ涼子もショックだった。大好きなイアンが「外国人だから」と差別されるなんて、絶対に許せないと思った。そして、イアンの来日がなしになることが何よりも怖かった。そのまま自分との関係も終わってしまうのではないか、そんな恐怖に涼子はとらわれた。

「大丈夫。私が振り込んでおくから。口座情報を教えて」

そのDMを送るのにためらいはなかった。