エンディングノートの内容が実行されるのには、何が必要だったか
文也さんのお父さんは、エンディングノートや契約によって、自分の病気の治療やお葬式に関しては意思を明確にしていました。しかし、それを病院や文也さんに伝える人がいなかったので、実行に結びつきませんでした。それでも、文也さんという息子がいて、遠隔地からではありますが手配をできたので、形としては問題なく死後の火葬に関する手続きまで行えました。
ただ、財産の相続についてはさまざまな人に“口約束”をしてしまい、それを遺言書など明確な形では残していなかったので、これから文也さんは相続人の間での遺産分割協議を行わなければなりません。
自分の意思を明確に文書や契約などの形で残すことと、自分が人に伝えることができない状態になっても、確実にその意思が必要な人に伝達されることがセットになってはじめて、自分の意思が実行に移せるという点が、高齢期の課題といえます。
特に、スマホなど個人だけが利用できるものに情報(たとえば親しい人の連絡先など)が集約されがちで、家族がいても簡単には利用ができなくなりつつあります。電話番号も家ではなくて個人に紐づいていて、調べることは簡単ではありません。一人暮らしの方だけではなく、誰かと住んでいても、昔のように情報を共有できているとは限らないのが現代の特徴です。今はまだ整っていませんが、必要な情報を身近な人に頼らずに流通させる仕組みがこれからの社会で求められます。
後日、文也さんは重い気持ちで母に相続の話をしました。母は意外とあっさりとした反応だったので安心しましたが、父の時と同じことにならないよう、できるだけ元気なうちに、病気になった時のことや、死を迎えたときのことを聞かなければと文也さんは思いました。
試しに墓のことを聞いてみたら、父の家の墓に入るのは絶対に嫌で、共同墓地を探していると話してくれたので、今度一緒に検討してみるつもりです。そして、自分もできるだけ希望を家族に伝えておかなければと思うのでした。