開いた元妻とのキャリアの差

忌々しいのは、花林と別れてから病院内での俺の立場が微妙になったことだ。消化器外科の科長が他病院に引き抜かれた後、後任に指名されたのは2年下の後輩だった。

一方、花林は湾岸にオープンした最新医療センターの脳神経外科医となって帰国した。アメリカ帰りのゴッドハンドともてはやされ、講演会やメディアから引っ張りだこだ。

 

意外だったのは花林が、難病や治療例の少ない希少疾患に真摯に向き合う極めて真っ当な医師だったことだ。医療センターの脳神経外科には国内に限らず、近隣国からも花林のオペを希望する患者が押し寄せているという。

つかみどころのない気ままな猫のような女だと思っていたが、それは俺が本当の花林を見ようとしていなかったかもしれない。むしろ、愚鈍な開業医だとばかり思っていた父親の方が、よほど花林のことを理解していたのだろう。

医療センターが入った高層インテリジェンスビルはこのタワマンから車で数分のところにある。有名建築家が手掛けたというガラス張りのタワーの威容が俺の部屋からもよく見えた。ライトアップされたタワーを眺めながらウィスキーのグラスを傾けるのが日課になった。